ピーカンナッツプロジェクトの苗木生産販売 市当局「めどつかず」 市議会一般質問で現状説明 接ぎ木苗の実証試験継続へ
令和5年12月5日付 1面

陸前高田市は4日の市議会定例会で、企業や大学との協働で取り組む北米原産のピーカンナッツプロジェクトに関し、「苗木の接ぎ木試験を継続して行っているところであり、苗木の生産・販売のめどはついていない」と説明した。市内にはピーカンナッツを取り扱う製菓会社の菓子加工・販売店が中心市街地にオープンするなど浸透が図られている一方、苗木生産技術の確立は道半ばで、産地化に向けた見通しは不透明のままだ。市は引き続き、接ぎ木苗の生育を観察しながら、産官学連携の同プロジェクト推進に取り組んでいく。(高橋 信、2面に一般質問の主なやり取り)
ピーカンナッツプロジェクトは、同日行われた市議会定例会の一般質問で、菅野広紀議員(碧い風)が取り上げた。「苗木生産の現状と販売までの見通しはどうか。現時点での具体的なロードマップはどうなっているのか」と質問した。
佐々木拓市長は米国からの輸入苗木を使い、クローン培養による苗木生産を目指した当初の計画について「技術的な問題などから困難であったため方針を転換した」と説明。「種から育てる形ではなく、より早く数年で実をつけると見込まれる接ぎ木による苗木生産の試験を行ってきた」と述べた。
令和3年度以降、市内に自生するクルミを台木に、ピーカンの枝を接ぎ木して観察。現時点で接ぎ木の成功に至らず、実証試験を継続しており、市長は「生産・販売のめどがついていない」と明かした。
菅野議員は「耕作放棄地対策としての植樹計画はどうなっているのか」と将来的な展開も尋ねた。
市長は「ピーカンはリンゴなど他の果樹に比べて、栽培の手間がかからないことから、耕作放棄地対策にも有効と考えているが、最適品種の選定とともに、苗木の増産が前提となる。現在行っている試験栽培の結果や接ぎ木の技術を確立してから検討していきたい」と答えた。
ピーカンナッツはクルミ科のナッツの一種で、米国で大規模に栽培されている。抗酸化作用があり、アルツハイマー病予防に有効との研究結果がある。実は柔らかく、渋みがない食べやすさから米国を中心に普及している一方で、国内では消費量が限定的で、外国からの輸入に頼っている。
ピーカンナッツプロジェクトは、市、老舗製菓会社㈱サロンドロワイヤル(本社・大阪市、前内眞智子代表取締役社長)、東京大の3者が協働して実施。収益性の高いピーカンの国内生産、流通基盤を構築し、東日本大震災からの農業再生、地方創生を図ることを目的とし、3者は平成29年7月、連携協力協定を結んだ。
昨年7月には、市が中心市街地の「アバッセたかた」そばに整備した産業振興施設を使い、同社がサロンドロワイヤルタカタ本店を開業。世界最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」で世界の優れたショコラティエ100選にも選出された実績を持つ同社が限定商品などを販売し、にぎわい創出に貢献している。
一方、産地化に向けた取り組みは市からの委託を受け、一般社団法人・ピーカン農業未来研究所が展開。試験栽培は令和2年4月、横田町と米崎町の2カ所で始まり、同市の気候に適した品種を調査している。昨年3月には「ピーカンのまち陸前高田」を発信していくシンボル的なほ場とも位置づけ、中心市街地そばの被災低地部で500本超の苗木が植えられ、接ぎ木苗の技術確立とともに試験栽培地の生育の行方にも注目が集まる。