自動運転の実装計画 白紙に 市が方針固める ランニングコストなど踏まえ
令和5年12月28日付 1面

陸前高田市は、高田松原津波復興祈念公園内などでの移動手段として導入の可能性を検討していた自動運転サービスの実装計画を白紙に戻す方針を固めた。昨年度からの2年間、計3回実証実験を実施し、令和7年度の本格導入を目指していた。実験では乗客から好評を博し、持続可能な公共交通の確立を推し進める「地域の足」としても期待を集めた一方、自動運転技術は発展途上にあり、ランニングコストもかさむことから、費用対効果の観点からいったん見合わせることとした。(高橋 信)
市は、東京ドーム約28個分の広さ(約130㌶)を有する祈念公園内に点在する東日本大震災遺構「奇跡の一本松」「旧気仙中校舎」などを巡る移動手段として、時速19㌔以下で走る自動運転車の導入を検討してきた。
しかし、特定の条件下で公道を非常停止も含めて自動走行できる「レベル4」の運行サービスに乗り出した自治体はごく一部で、市は他自治体における自動運転車の交通事故などを踏まえ、「現段階では技術的な課題を残している」と判断。「完全無人化」移行までの人件費やシステム管理費が多額に膨らむ可能性があるため、計画を一度白紙に戻すこととした。
市は令和4年度に2回(9月、2~3月)、5年度に1回(9月)実証実験を実施。6年度に車両の購入、プレ運行、7年度に実用化の青写真を描いていた。
4年度1回目の実験は、震災遺構の見学者が多い園内西側に運行ルートを絞り、乗客定員7人の小型電気バス1台を使用。運行日数は18日で、780人が乗車した。震災遺構を案内するパークガイド付きの便も用意した。
2回目の実験は、走行エリアを園内全域に拡大し、29日間運行。自動運転技術の実証に加え、客足が遠のく冬季の需要も確かめた。
運行便数は平日159便、休日77便の計236便。利用者数は平日354人、休日333人で、計687人。1日当たりの平均利用者は23・7人で、前回実験対比で4割強減となった。
利用者アンケートも実施し、244人が回答(回収率35・6%)。総合満足度は81・3%が「良い」または「やや良い」と答えた。
5年度は昨年度よりも車両を1台増やし、2台を使った。園内の周遊に加え、新たに公園と市中心部を往来するルートを加えた。
市は自動運転車とは別に、祈念公園内の移動手段として時速19㌔以下で走行する電動カートの導入を計画している。
市政策推進室の村上幸司室長は「実証実験では成果も得られ、運転手不足が課題の公共交通を打開する有効的な手段と捉えている。国の支援のもと技術開発が進み、持続的な仕組みとして導入できる段階に至れば再検討したい。先行自治体などの取り組みも注視していく」と見据える。