民間委託の流れに一石 大船渡ふるさと交流センター閉店巡り市議会全協 事業管理や成果で当局「反省」も
令和6年1月20日付 1面

大船渡市議会全員協議会が19日に議場で開かれ、市当局は東京都内に店舗を構え、昨年11月に閉店した「大船渡ふるさと交流センター」の対応状況を示した。平成28年度~令和3年度は市が民間企業に委託し、4年度から約1年半はこの企業が自立運営していた。関連事業を含め総額1億8000万円超を支出してきた市側は、事業収入の見通しなどにおける調査・検討の不十分さをはじめ、反省点を明かした。議員からは同センター事業にとどまらず、行政側が民間委託を進めてきた流れに一石を投じる観点からの発言も寄せられた。(佐藤 壮)
大船渡ふるさと交流センター「三陸SUN」は、平成29年に杉並区高円寺南地内にオープン。地方創生推進交付金を活用し、大船渡にゆかりや関心のある首都圏住民らが交流を図るとともに、特産品や観光のPR、移住相談などもできる拠点として市が整備した。令和3年には、東京メトロ丸ノ内線東高円寺駅近くの青梅街道沿いに移転した。
同市の㈱地域活性化総合研究所(福山宏代表取締役)が、オープン時から市の委託を受けて運営し、近年は独自に営業。3年度の来店者数は約1万3000人、同研究所の単独運営となった4年度も来店者数1万人を超えた。店舗での売り上げは年間2000万円程度で推移してきた。
しかし、新型コロナウイルスによる影響で首都圏でのイベント参加が増えない状況が続いたうえ、ふるさと納税制度の普及によって直接来店して物産品を買い求める動きが弱くなったという。さらに、物価高騰の影響で仕入れ単価や光熱費といった経営コストが増大し、閉店を決めた。
市側の説明によると、関連事業を含めた平成28年度からの委託料は1億8279万円。市は地方創生推進交付金事業として平成28年度から「スローシティ大船渡移住・交流促進事業」を実施し、30年度までの大船渡ふるさと交流センター関連事業費では5000万円余を投じた。
令和元年度から3年間は、市単独の維持管理業務として計約3000万円を計上。4、5年度は観光案内・移住相談業務として年間160万円前後の契約を結んでいた。元年度と2年度には三陸マリアージュ事業の商品企画などを委託し、同社だけで総額は約1億6000万円に及んだ。
市側は成果として、商品開発や同センターでの特産品販売、展示会出展などによる販路拡大、認知度向上を挙げた。共同の流通管理システム構築、交流・観光人口の拡大にも、一定の成果があったとする。
一方で、「営業収益の悪化で自走化から1年半で閉店となったことを踏まえると、自主財源となる事業収入の確保が大きな課題。自治体アンテナショップなどを取り巻く事業環境や自走を意識した事業収入の見通し等の調査・検討が十分ではなかった」と総括した。
さらに、地方創生推進交付金事業をはじめ複数年度にわたり継続的な支援を行う事業については、公費投入額が膨らむ中、妥当な数値目標や効果検証の重要性にも言及。答弁で今野勝則商工港湾部長は「うまくいくかどうかが感覚的に分からない大規模の事業費になってしまったことが問題ととらえている。複数年で進め、成果を反映できていない部分があった。この反省を次に生かしたい」と語った。
また、8年間の事業成果を問われた鈴木宏延商工課長は「人口減に歯止めをかけ、交流人口拡大や首都圏から移住者を呼び込むためにも、必要な事業だったととらえている。商品開発という民間企業でもなかなか難しい分野にチャレンジしてきたが、三陸マリアージュのブランドをけん引するような商品を開発できず、思うような成果が出なかった」と答えた。
他事業でも民間委託の流れが進む中、複数の議員から今後の教訓を問う声も。炭釜秀一財政課長は「将来的に民間の自走を求めるものに関しては、事業者が収益を確保できるよう一緒に考えるべき。同時に、最初の仕様書が〝ふわっと〟していると、評価・成果が見えにくい。より具体的な内容に向けた議論を、発注課と詰めなければいけない」と語った。
阿部貴俊企画調整課長は、地方創生推進交付金事業は一定のストーリー性を意識し、行政は事業者と伴走しながら進める必要性に言及。そのうえで「しっかりとした制度設計をしながら、目的に合わせた委託が必要。事業者を育てるという目的と、地域課題を解決するという目的を切り離しながら進めるべきと考える」と話した。