インタビュー気仙2024①未来への針路は /大船渡市漁協組合長・亘理榮好さん(75) 「浜がいいば、陸もいい」

 新型コロナウイルスや物価高騰の影響が残る中、気仙では主力魚種の不漁や人口減少、持続可能なまちづくり、産業創出、多様化する災害への備えなど、次代を見据えた対応が迫られている。どのような未来を望み、そのために何をなすべきか。各界リーダーらの思いを聞く。

 ──養殖事業や定置網事業をはじめ、現状の漁協運営への手応えは。
 亘理 主力である養殖カキは、場所によって差があるが、へい死が多くなっている。出荷数量は前年同期の80%程度だが、金額は約1割上回っており、単価高に助けられている。
 定置網事業は、昨年12月末時点での金額は、前年の約7割と振るわないが、今後に期待したい。近年の黒潮北上に伴う海水温上昇で、秋サケの水揚げは危機的状況ではあるが、イワシなどの水揚げが増加し、さらに来年度はマグロの漁獲枠が増えることから、魚種にあった網で対応したい。組合員・役職員が一丸となって困難を乗り越えたいと考えている。
 ──昨年は猛暑、海水の高水温化が深刻な状況となった。影響と対策は。
 亘理 養殖カキのへい死によって、他県でも出荷量の減少があった。原因は不明で、具体的な対策案はない。県や市、県魚連と連携・協議しながら進めている。
 海の環境・状況は毎年変化し、昨年は養殖カキへのザラボヤの大量付着、カキの大量放卵などがあり、予測がつかない状況になっている。われわれは、与えられた自然環境の中で最善策を考え、実行するしかない。
 ──福島第一原発の処理水放出開始による影響は。
 亘理 養殖カキは、むき身の全量を豊洲市場(国内消費向け)に出荷し、政府の安全PRのおかげもあり、5年度も前年同様に高値で取引されている。
 一方、アワビやナマコは、例年の4~5割安の価格となった。国には処理水の安全性をもっとPRし、新たな輸出販路開拓や、輸出の正常化に努めてほしい。
 ──近年は、アワビやウニの餌となるコンブ類の資源量減少も叫ばれている。
 亘理 藻場の減少対策として、元年度からコンブの種を購入して養殖施設で育成し、岩礁帯に投入する事業を実施している。ウニの大量発生による藻場の食害防止として、ウニの駆除・移設事業も進めてきた。
 磯焼け対策として、組合内3支所で国の水産多面的機能発揮対策事業を活用し、藻場の維持・保全活動の一環でウニなど食害生物の移植とその効果把握のため、モニタリング調査を実施している。
 藻場減少による不漁の要因は、自然環境の変化が大きいと思われる。組合員・役職員は「自分たちでやれることを最大限やるしかない」との覚悟で臨んでいる。
 ──担い手確保に向けて、魅力ある漁業づくりへの考えは。
 亘理 東日本大震災を機に当組合でも漁業就業者が大幅に減少し、その後も高齢化などの理由でさらに減少しているのが実情だ。漁業者に限らず、どの業種でも、働き手不足や会社の後継者不足に直面しており、日本全体の大きな課題になっている。
 市や県漁業担い手育成基金の協力も得ながら、新規に定置網船の乗組員やワカメ、カキなど養殖漁業者の確保に努め、子どもたちに漁業への興味や関心を持ってもらうように市内小中学校で漁業体験学習を行っている。
 ──市は「水産のまち」を掲げている。中核となる組織として、今年の抱負を。
 亘理 漁協は、組合員のための組織。代々引き継がれてきた恵みの海にどっしりと腰を据え、「浜がいいば、陸もいい」と、海からの警告に耳を傾けながら豊漁を願うとともに、関係機関の指導を得ながら「安全・安心な水産物の安定生産」を柱に、新たな課題に対応していく。持続可能な漁業の実現とともに、組合員の安定的な生活の構築に向けた事業推進に努めたい。(聞き手・佐藤 壮)