交付者数が過去最多に 市のタクシーチケット事業 充実要望も既存公共交通との共存が鍵
令和6年2月6日付 1面
交通不便地域における高齢者の移動対策として大船渡市が実施しているタクシーチケットの交付者数が、本年度12月末時点で391人となり、開始した平成27年度以降で最多となった。1枚500円で利用できる中、高齢化の進行に加え、事業への理解・浸透が進み、増加傾向が続く。さらなる充実を求める声は根強い一方、低迷が続く既存公共交通サービスとの共存や財政面にも影響するだけに、市は引き続き、地域の実情に合った交通サービス維持に向けてバランスを意識する。(佐藤 壮)
交付の対象は盛、大船渡、末崎、猪川、立根、赤崎のいずれかの町に在住する75歳以上となる市民で▽自宅と最寄りのバス停・駅までの距離が300㍍以上離れている▽運転免許(自動車、バイク)を所持していない▽市福祉タクシー助成を受けていない──の要件を満たす人。
チケットは500円の1種類。1人当たりの配布枚数は、大船渡、盛、猪川(西山・大野を除く)、立根各町在住者が12枚、蛸ノ浦地区を除く赤崎町在住者が24枚、末崎町、赤崎町蛸ノ浦地区、猪川町西山・大野の在住者は36枚となっている。
市によると、令和5年度実績は、昨年12月末時点での交付者が391人で、すでにこれまで最多だった4年度通年実績の367人を超えた。発行枚数は8004枚で前年同月比で約500枚(6%)、補助額は191万円で同比35万円(22%)それぞれ上回った。
発行数に占める利用の割合も、前年同月は41・4%だったのが、本年度は47・6%に上昇。地区別の交付者は末崎町が最多で99人。次いで大船渡町が80人、赤崎町が68人、猪川町が48人。末崎町の利用率が36・4%低いが、他地区よりも配布枚数が多く、交付を受けたものの、チケットを使用していない人が一定数いることなどが予想される。
対象地域の高齢化に加え、民生委員らによる周知で住民理解が進んだことが、交付者増の一因とされる。利用者からは、距離要件の緩和や配布枚数増加の要望もあるが、市側は慎重な姿勢を見せる。
要件緩和を行うと、さらに利用者や事業費が増える一方、既存のJR大船渡線BRTや三陸鉄道、路線バスといった公共交通の利用者数減が予想される。市は「財政面も考慮しながら、地域の実情に合った交通サービスを提供していく必要がある」としている。
令和5年度における公共交通維持に要する市の事業費見込みは、9688万円。4年度の9970万円と同規模で、7838万円だった令和元年度と比較すると27%増加。公共交通利用が大きく減少し、三陸鉄道や市内路線バス維持に対して、市の歳出が増えている。
三陸鉄道は安全輸送設備事業費補助金や運営費補助に加え、令和2年度以降は新型コロナウイルスや原油価格・物価高騰の影響で経営が悪化し、県や沿線市町村が運行支援を続ける。
4年度実績を見ると、市内各駅の乗車人員は計8万4779人で、コロナ禍前の令和2年度に比べ2万5000人超減少。5年度は釜石―宮古、宮古―久慈は前年度を上回る一方、盛―釜石は下回っている。厳しい経営状況は6年度も続く見込み。
市内路線バスは、地域内フィーダー系統確保維持費国庫補助金を活用しながら路線を維持。碁石線と丸森立根線、綾里外口線、立根田谷線の利用総計を見ると、平成30年度は12万9000人台だったが、令和4年度には5万6000人近くにまで落ち込んだ。
予約型の乗り合いタクシー「デマンド交通」に関しては、本格運行している日頃市地区では地域に定着した公共交通手段として、利用者が増加。越喜来地区では実証運行が続くほか、末崎地区でも導入に向けた協議・調整が進められている。
チケットの配布には、申請が必要。問い合わせは、市企業立地港湾課交通係(℡27・3111内線120)へ。
利用状況の推移は別掲。