赤字解消へ値上げ不可避 令和6~15年度の水道事業経営戦略案 将来見通し「料金改定が必要」
令和6年2月9日付 1面
大船渡市は、令和6~15年度を期間とする水道事業経営戦略案をまとめ、8日の市議会全員協議会に示した。旧市内を中心とした上水道と、三陸町の各地にある簡易水道事業のそれぞれで経営戦略を策定しているが、今年4月の事業統合に伴って上水道の経営環境が著しく変化するため、新たに策定する方針。人口減少などが進み、統合初年度の6年度から赤字決算が見込まれる中で「適正な時期に料金改定が必要」と明記し、前回の値上げから5年が経過する8年度にも改定する方向性を示している。(佐藤 壮)
市の上水道は旧市内を中心に整備され、4年度末の給水人口は2万6768人で給水区域内人口に対する水道の普及率は96・3%。立根、日頃市地区の未給水地域の解消に向けた事業が進む。
簡易水道は昭和30年に三陸町吉浜で供給開始以来、地区ごとに順次整備が進められた。現在は7事業が点在し、給水人口計は5223人、普及率は98%。現在、綾里川ダムから継続取水するための排水堰の改修・活性化炭ろ過装置の設備を進めている。
上水道事業は一定の純利益を確保し、独立採算を維持する一方、簡易水道事業は一般会計から多額の繰り入れを受けても毎年欠損金が生じる状況。基準内での適切な繰り入れを行いながら安定的な事業運営を進めるなどの目的で、今年4月に統合する。
水道料金は現在も、同じ料金体系。令和3年4月に平均19・9%値上げする改定を行い、一般家庭での平均使用水量(口径20㍉、1カ月当たりの使用水量16立方㍍)の場合、2833円から3394円に上昇した。
簡易水道は、給水効率の低さなどから収益確保が難しく、累積欠損金を抱える。市は統合によって一般会計からの適切な繰り入れや将来的な値上げを見据えながら、持続可能な事業運営を進める方針。基準内繰入金にかかる地方交付税措置を受けるには、経営戦略の策定が必須条件となっている。
今回示した案の中で、将来の財政収支見通しをまとめた。料金を据え置いた場合、統合初年度の令和6年度から赤字となり、事業費用を事業収支で賄えない状況になる。資金残高は18年度に底をつき、事業継続ができなくなる。
経営改善に向け「適切な時期に料金改定を実施し、損益黒字を確保すると同時に安定的な資金確保に努める」「災害時をはじめ非常時の備えとして、給水収益の1年分程度の資金残高を確保するよう努める」と明記。施設の長寿命化や老朽管等の更新・耐震化に関する計画策定、水需要の減少に応じて適正な規模や能力に「ダウンサイジング」しながら将来投資経費の削減に努めるとしている。
投資・財源試算では、令和3年度の改定から5年が経過する8年度までは料金改定を行わない形で試算。同年度に14%、16年度に15%、21年度に14%、37年度に5%程度の値上げがそれぞれ必要となる結果となった。
ただし、16年度以降に関しては、投資事業費のさらなる精査が必要で、事業規模に合わせた再検討を行う必要があるという。
料金改定により、8年度以降は損益黒字を確保する試算。ただ、給水原価や供給単価がともに年々増加するため、改善に向けて施設統配合や規模縮小など、固定費縮減に向けた取り組みが必要になるとしている。
また、2年度に公営企業会計に移行した簡易水道事業には、統合時点で約2・3億円の累積欠損金が見込まれる。統合後の利益で縮減を図り、17年度には解消する見通しも示した。
議員からは「市民がどこまで値上げに耐えられるかも考えるべき。市民負担を増やさないための努力は」との声も。市側は「設備投資の削減が一番だが、どうしても時間差が生じる。理論的にはそうなる(市民負担が増加する)が、低減に向けて一般会計の繰り入れに加え、国からさらに支援を受けるよう声を上げ続ける」と述べ、理解を求めた。
猛暑や暖冬など気候変動の影響を受ける中、綾里簡易水道の水源である綾里川ダムで昨年度、渇水となって給水車対応などに迫られた中、今後の見通しも話題に。市によると、県と協議し、ダムからの放水量を通常時から使用に見合った量に調整しているという。
市は、このほど開催した水道事業運営審議会でも戦略案を説明。年度内の策定を目指している。市がまとめた将来見通しは別掲。