震災支援が縁 絆の卵焼き 陸前高田の名店が調理法伝授 三重の事業者が販売目指す

▲ 阿部店主㊥から卵焼きの作り方を教わる心さん㊧と元さん㊨

 発達障害児の療育事業などを手掛ける三重県菰野町の「ほがらかグループ」(三浦伸也代表)は同町での卵焼き専門店開業を目指し、陸前高田市高田町の飲食店「和食 味彩」(阿部昌浩店主)から調理法の指導を受けている。両者がつながったきっかけは、13年前の東日本大震災。発災後、同市内で絵本の無償提供や読み聞かせ活動を展開してきた同グループの新たな挑戦に、「支援への恩返しを」と卵焼きが名物の同店が協力。震災支援が生んだ〝絆の卵焼き〟の販売が待たれる。(高橋 信)

 

三浦伸也代表

「よろしくお願いします」。
 今月中旬、三浦代表(61)と三浦代表の双子の息子、心さん(24)、元さん(24)の3人が味彩を訪ねた。
 直接指導は今回が初めて。東京・品川プリンスホテルなどで腕を磨いた阿部店主(56)から手取り足取り教わった。今後も定期的に通い、習熟度を確かめる。
 ほがらかグループは普段見守っている子どもたちの就労の場確保のため、令和7年度下半期に卵焼き専門店をオープンする構想。店の切り盛りを主に担う予定の心さんと元さんが、味彩仕込みの作り方を療育事業所の利用者に伝え、「みんなで楽しく働く場」の創出を思い描いている。
 三浦代表は平成14年から、絵本の読み聞かせを通じ、全国の子どもたちに笑顔を届ける事業「絵本ライブ」を展開。東日本大震災が起き、「東北被災地の力になりたい」と、発災2カ月後の23年5月、陸前高田市内でも絵本ライブに乗り出した。
 それ以降、三重から片道1000㌔の距離を車で走り、毎月通った市内の保育所・保育園では「しんちゃん」の愛称で親しまれた。24年には三重県内から集めた絵本1万冊を同市に運び、延べ500人に無償で配った。保護者には読み聞かせを楽しむ子どもたちの笑顔を撮影したフォトムービーをプレゼントした。
 三浦代表自身も陸前高田の子どもたちからエネルギーをもらい、「地元でも継続的に子どもたちと接したい」という思いを募らせた。平成30年に発達に不安のある未就学児の療育事業所を、令和4年に放課後等デイサービス事業所を菰野町に開所した。
 「将来、今のスタッフと大人になった子どもたちと、みんなで一緒に働けたらどんなに楽しいだろうか」。次なる目標が就労の場確保に定まった。「私も息子たちも妻が作る卵焼きが大好物だから」という理由から卵焼き専門店に決めた。
 「給料をしっかり払える場にしたい。重要なのは味だ」。三浦代表の頭の中に「味彩」が浮かんだ。震災で被災し、新市街地に再建された店舗で、卵焼きを食べて以来のファンだった。
 昨年夏、「師匠になってほしい」とダメ元で店の門をたたくと、二つ返事で承諾してくれた。阿部店主は「陸前高田の子どもたちのために活動を続けていただいた。今度はこちらが恩返しをする番」との思いで手を差し伸べたという。
 三浦代表は「感謝してもしきれない。阿部さんの思いに報いるためにも夢を形にする」と感激。心さんは「みんなで楽しく働く場をつくりたい」、元さんは「阿部さんの味に近づけるよう頑張る」と意気込む。
 阿部店主と二人三脚で店を営む妻の裕美さん(56)は「しんちゃんは口にすれば何でも実行するすごい人。支援者と被災者ではなく、対等な立場でつながり続けるきっかけをいただいた」とエールを送る。