厳しさ増すサケ稚魚育成 気仙沿岸 令和5年度漁獲実績は過去最低に 種卵は県外移入頼みで計画の7割

▲ サケ稚魚の放流作業を迎えている盛川漁協

 県内沿岸における令和5年度の秋サケ漁獲数は前年の26%にとどまり、過去最低に終わった。大船渡だけをみると前年の17%で、さらに深刻な状況だ。気仙の各河川での採卵も計画を大幅に下回った中、北海道や山形県からの移入に大きく頼る形で、稚魚の育成・放流が進む。従来よりも大きく成長させるなど工夫を重ねる一方、漁協関係者は主力魚種としての確保を見通せないまま、厳しい運営に向き合っている。(佐藤 壮)

 

 県農林水産部水産振興課がまとめた5年度最終版の秋サケ漁獲速報によると、県全体の沿岸・河川累計捕獲数は4万4299匹。前年の16万9280匹だけでなく、過去最低だった令和3年度の13万9403匹も大きく下回った。
 県沿岸の累計漁獲量は2万8272匹(重量85・55㌧)。前年度は11万3720匹で、75%減少。河川捕獲は1万4933匹で、前年度を70%下回った。
 沿岸漁獲の重量は過去5年平均(2962㌧)のわずか2・9%にとどまる。金額も1億2893万円と伸びず、同平均(21億1517万円)の6・1%となっている。
 大船渡市魚市場への累計水揚げ数は1390匹で、前年度比6993匹(83・4%)の減。1㌔当たりの平均単価は1259円で、前年度を200円(19%)上回った。
 気仙の河川捕獲数(海産を除く)をみると、吉浜川が74匹(メス34匹、オス40匹)、綾里川が92匹(メス53匹、オス39匹)、盛川が544匹(メス247匹、オス297匹)、気仙川が3581匹(メス1621匹、オス1960匹)。いずれも前年度の4割未満となった。
 採卵数は吉浜川が3万9000粒で、前年度比85%減。盛川は42万2000粒で、同61%減。気仙川は371万7000粒で、同60%減。気仙地区全体では、417万8000粒で、各漁協での採卵計画数合計174万粒の24%にとどまった。
 こうした中、北海道で採卵した822万2000粒を4回に分け、気仙の拠点ふ化場となっている広田湾漁協(陸前高田市)の施設で育成。さらに、山形県で採卵した35万5000粒も同施設で育てた。これにより種卵は1275万5000匹となり、計画の73%分を確保した。
 サケの稚魚育成は近年、拠点化などで運営経費の削減を図っているが、実情は厳しい。大船渡市・盛川漁協の佐藤由也組合長は「今は、やればやるほど赤字の状態。立ちゆかなくなっている」と危機感を隠さない。
 沿岸の定置網漁業では、低迷が続く近年の実績よりも本年度はさらに落ち込み、運営する各漁協の収益に影響。盛川漁協ではサーモンの育成など新たな漁業資源確保に向けた取り組みにも力を入れているが、サケ事業の赤字を補うほどの規模には至っていない。資源量の減少だけでなく、電気料金やえさ代の上昇も経営を圧迫する。
 同漁協では現在、盛川で採卵した分の稚魚放流が本格化。体長は5~6㌢と従来よりも1~2㌢程度大きく育て、生存率向上を図っている。今後は移入卵分の放流も控えている。
 近年の不漁は、海水温の上昇が一因とされる。佐藤組合長は「悪い状況に耐えてばかりでは、漁協自体がつぶれてしまう。近年の(南からの)黒潮の張り出しを見れば、大幅な回復は予想できない。今年秋の採卵、稚魚放流まで計画を立てているが、その後はどうなるか」とも話す。