津波避難計画の基本方針決定 有識者会議が承認 シミュレーション実施し分析作業へ 7年3月の策定目指す

▲ 津波避難シミュレーションなどに関して議論したアドバイザリー会議

 陸前高田市は、車避難のあり方や避難困難地域の有無などを盛り込む市津波避難計画の策定に向けた基本的な方針を決めた。28日、有識者でつくるアドバイザリー会議(委員長・牛山素行静岡大教授、委員5人)が開かれ、方針案を承認した。今後、津波避難シミュレーションを実施し、命を守る対策を多角的に検討する。計画は令和7年3月の策定を目指しているが、根拠のあるデータに基づいた実効性のある計画とするため、同会議は策定時期よりも丁寧な分析を重視して作業を進める。(高橋 信)


 アドバイザリー会議は、災害情報学や防災まちづくりなどに詳しく、防災分野における国レベルの公的委員などを務める専門家が名を連ねており、昨年7月に発足。3回目となった28日の会合は市消防防災センターで開かれ、全委員が出席し、佐々木拓市長が傍聴した。
 協議は一部非公開で行われ、基本的方針を決めたほか、津波避難シミュレーションや個別避難計画に関して意見を交わした。
 基本的方針によると、計画策定に向けて新たに検討する事項には▽避難困難地域▽避難場所等、避難路等の指定・設定▽その他留意点(観光客等の避難対策)──を挙げる。
 これら検討事項をより実効性が伴う内容とするため、津波避難シミュレーションを実施する。現段階で実験地は市内居住者が多くいるエリアと、市外から訪れた観光客などが主に滞在するエリアの大きく2カ所を想定しており、さまざまな条件で計算する。
 個別避難計画は、高齢者や障害のある人など自ら避難することが困難な「避難行動要支援者」ごとに作成が求められ、一人一人の具体的な避難ルートや近所で支援する人などを決めておくもの。市によると、同支援者名簿の登録者は28日現在212人で、このうち計画作成者は72人と、全体の33・9%にとどまる。
 ただ支援の担い手確保が課題で、災害時に実際に生かせる内容とするため、計画の精査が必要となる。アドバイザリー会議ではこうした個別避難計画の課題も洗い出し、津波避難計画内に整理してまとめる。
 県は一昨年3月、最大クラスの津波浸水想定を公表し、同年9月にはその被害想定を示した。同市における最大震度は6弱、最悪のケースを想定した推計死者数は最大160人。発災後すぐに避難した場合、市内死者数はゼロと示されている。
 陸前高田市では東日本大震災時、車の渋滞が一部発生しており、市地域防災計画では避難手段について「原則徒歩」と明記している。しかし、高齢化が進行し、徒歩避難が難しい人の増加が見込まれることなどから、アドバイザリー会議で車避難のあり方を検討し、津波避難計画に方針を盛り込むこととしている。
 牛山委員長は「委員それぞれの知見を生かし、実効性、現実性のある避難計画を作っていきたい。そのためにも、理念ではなく、シミュレーション結果など根拠を持ったデータに基づいて策定に向けた検討を進めていく」と見据えた。