特集/地域のために走り続ける―― 三陸鉄道 あす開業40周年 災禍乗り越えた復興の象徴

▲ 本県沿岸に広がる美しい風景の中を走り抜ける三陸鉄道の車両=大船渡市三陸町吉浜

 三陸鉄道㈱(石川義晃社長、本社・宮古市)は、4月1日(月)で開業40周年を迎える。〝三鉄〟の愛称で地域の足として親しまれ、幾多の災禍に見舞われながらも、国内外からの支援を受け何度でも立ち上がってきた。記念イヤーとなる令和6年度は、多彩な記念事業を企画し、列車利用や支援、協力への感謝を示す。〝復興の象徴〟ともいえるトリコロールの車両は、きょうも地域のために走り続ける。(菅野弘大)

 

 三陸鉄道は、国鉄の地方路線から転換した日本初の第三セクター鉄道として、昭和59年4月1日に開業。南リアス線(盛―釜石)と北リアス線(宮古―久慈)のそれぞれで運行し、通学や通勤、買い物など、地域住民にとって必要不可欠な交通手段の一つとして利用されてきたが、平成23年3月11日の東日本大震災によって、南北両線とも甚大な被害を受けた。
 それでも、地域の足としての使命を果たすべく、北リアス線からすぐさま運転を再開させ、震災復興支援列車を無料で運行。南リアス線も懸命な復旧が続けられ、同26年4月に全線復旧を果たした。
 平成31年3月には、震災で不通となっていた東日本旅客鉄道(JR東日本)山田線のうち、宮古―釜石駅間を移管。盛―釜石―宮古―久慈間の総延長163㌔がつながり、三陸鉄道リアス線となった。
 しかし、リアス線の運行開始から約半年後の10月、台風19号の影響により、線路への土砂流入や線路を支える土の流出、信号設備の浸水など93カ所が被災し、約7割が不通に。特に被害が大きかった釜石駅以北では、代行バスを走らせるなどして復旧を急ぎ、県内外からの寄付なども活用して令和2年3月に全線での運行再開にこぎつけた。
 だが、この時期から新型コロナウイルスの流行が始まり、感染対策や人数制限など苦しい状況が続いた。それでも工夫を凝らしながら各種企画を打ち出し、観光利用などは持ち直しつつある。
 大船渡市の渕上清市長は「現状は利用者が伸びない状況はあるが、よりマイレールとして日常づかいをするような仕掛けが必要。イベントでの活用や市内のサークル、団体の積極的な利用を呼びかけたい」と見据える。
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 三陸鉄道では、開業40周年記念事業として多彩な企画を用意。地域に愛される鉄道であり続けるため、感謝の気持ちを伝える機会にする。
 開業記念日の4月1日は、40周年のヘッドマークを付けた記念列車を運行。10市町村の三鉄駅では歓迎セレモニーも実施予定で、大船渡市では午前11時8分盛駅発の下り列車と、午後4時35分同駅着の上り列車に合わせ、市役所、市観光物産協会職員、おおふなトン、秋刀魚武士(さんまぶっしー)、つばき娘らが出迎え、見送りを行う。のぼり旗や大漁旗、記念の横断幕などを掲げるほか、乗客らに紅白のかもめの玉子もプレゼントする。
 このほかにも、記念切符、硬券セット、御朱印の鉄道版「鉄印」の販売や、宮古駅での記念式典開催など、1年間を通して節目の盛り上げを図る。事業の詳細は公式ホームページで確認できる。


40年の歩みを重ねて
三陸鉄道盛駅長 山蔭 康明さん(59)

 

 大船渡市盛町の三陸鉄道盛駅長を務める山蔭康明さん(59)。昭和58年10月に入社し、その約半年後に開業を迎えた。社員として各種業務に奔走してきた約40年間は、三鉄が歩んできた歴史と重なる。
 開業当時は宮古駅で勤務。「ものすごい人で、待合室にも朝から晩まで多くの人がいた。慣れない仕事に緊張もしたが、そう思ってもいられないほど慌ただしかった」と、地域の熱狂ぶりを懐かしみ、「もう40年もたったのか」としみじみ振り返った。
 東日本大震災の数年前に大船渡へと異動。仕事を終え、赤崎町の自宅にいた時に大地震に見舞われた。自宅も職場も津波で被災し「終わった。どうしよう」と途方に暮れたのもつかの間、すぐに運行再開に向けて動き出した。
 「列車だけ再開しても、地域に生活が戻らないと意味がない」。そう思ったこともあったが、休日には災害ボランティアに参加し、まちの早期復興を願いながら業務にあたった。現在は企画列車「震災学習列車」のガイド役も務め、自身の経験や災害の教訓を伝えている。
 震災だけでなく、台風19号の被害にも見舞われ、全線復旧後はたたみかけるようにコロナ禍が襲った。沿線の少子化により定期利用も減少が続くが、ローカル線の良さや魅力を生かしたイベント開催のほか、子どもたち向けの企画列車も走らせるなど、地域の〝マイレール〟意識の醸成につなげている。
 「利用者の『ありがとう』という言葉が一番のやりがい」と山蔭さん。「三陸鉄道は地域にとって必要だと思っている。地域にも理解を得ながら、地元住民、観光客問わず多くの方に乗っていただきたい。40周年の企画もたくさん打っていくので、愛着を持ってもらえるように、私たちはこれからも走り続ける」と力を込めた。

 

盛岡市で開かれた取締役会

赤字は7億円超で過去最大

取締役会で決算見通し示す


 2023年度の第5回取締役会は28日、盛岡市の県水産会館で開かれ、同年度決算見通しを発表した。修繕費や燃料費高騰の影響により、経常損益は過去最大となる7億955万円の赤字。国、県、沿線自治体からの補助金などの特別利益10億円を含めた当期損益も2848万円の赤字を見込むなど、依然として厳しい状況が続いている。
 リアス線全体の輸送実績(令和5年4月~6年2月)は、地元または観光利用が持ち直し、定期外利用が24万7557人(前年同期比11・9%増)となった一方、定期利用は沿線の少子化などの影響で32万8485人(同5・2%減)にとどまった。全体では57万6042人(同1・5%増)となった。
 収支状況は、鉄道運賃収入が3億1074万円(同10・1%増)。少子化により、定期利用は7805万円(同0・4%増)とほぼ横ばいだったが、コロナ禍の行動制限がなくなり、定期外利用が2億3270万円(同13・8%増)と増加。関連事業収入は3243万円(同32・3%減)と減少したものの、経常収益は3億9440万円(1・5%増)を計上した。
 一方、経常費用は修繕費や損害保険料、被服費などの増加により9億348万円(0・1%増)となり、経常損益は5億908万円の赤字だった。
 決算見通しは、経常収益が4億4366万円(同1・7%増)に対し、経常費用が11億5321万円となる見込みで、経常損益は過去最大の7億955万円の赤字になるとしている。
 収支計画は、23年度見通し比で旅客運輸収入は3億9430万円(17・2%増)、経常収益は5億1062万円(15・1%増)と想定。経常費用は11億8178円(2・5%増)と見込んでおり、経常損益は6億7116万円の赤字と厳しい経営が続く。
 石川社長は「震災学習列車などの企画列車や、海外インバウンドにも手応えを感じている。開業40周年となる来年度は、利用、支援いただいた方々に感謝するとともに、三陸鉄道のあり方を考える1年にしたい」と述べた。