日頃市に最古の植物化石 「中里層」(4.1億~3.9億年前)の地層に胞子 静岡大・ルグラン助教ら研究グループが発見

▲ 市立博物館では「中里層」の化石などを常設展示している

 静岡大学理学部のルグラン・ジュリアン助教やマヘル・アフメド博士(創造科学技術大学院)らの研究グループが、大船渡市日頃市町の「中里層」と呼ばれる古生代前期デボン紀(4・1億~3・9億年前)の地層から、日本最古の胞子化石群集を発見した。植物の化石記録としても最古で、従来の記録を1000万年以上さかのぼる。末崎町の市立博物館(鈴木満広館長)でも発見を喜ぶとともに、5億年前も含め幅広い年代の地層が見られる大船渡のさらなる認知度向上にも期待を込める。(佐藤 壮)


 植物は、4・8億年前までに陸上に進出したとされる。これまで知られていた日本最古の植物化石は、岩手、福島、岐阜、熊本各県などで報告された後期デボン紀(3・8~3・6億年前)のリンボク類(木生のヒカゲノカズラ類)だった。
 シダ植物をはじめ現代の植物の大半が属している維管束植物の祖先は、前期デボン紀(約4・2~3・9億年前)に急速に多様化した。現代に見られる植物の祖先が出そろった一方、国内では同紀の植物化石データがなかった。
 研究グループでは、日本の植生を解明する足掛かりとして、市内では猪川町や日頃市町に分布する「中里層」で胞子化石の探索を始めた。中里層は海で堆積した地層だが、植物の遺骸による炭のようなものが地層中に多く含まれることが古くから知られていたほか、示準化石である三葉虫に基づき、約4・1~3・9億年前の堆積が分かっていた。
 熊本大学の小松俊文教授によると、同町にある樋口沢ゴトランド紀化石産地の西側で、最初の予察的な分析として平成29年に岩石試料を採取。分析後に胞子の化石が含まれていることが分かり、令和3年12月に本格的な試料採集を行い、今回の研究成果につなげた。今月15日、日本古生物学会が発行する国際誌「Paleontological Research」電子版に掲載された。
 胞子・花粉は大量に生産される。外壁はスポロポレニンという化学的に安定的な高分子化合物が主成分であるため、大型の植物化石よりも堆積物の中で長期間分解されずに保存されやすいという。
 研究では、中里層の岩石をすりつぶし、胞子化石を抽出。走査型電子顕微鏡で観察した結果、複数個の胞子が集合した隠胞子(ゼニゴケの仲間)や表面にY字型のマークを持つ胞子などが見つかった。原始的な維管束植物のグループや、現在見られているシダ類や種子植物の祖先に当たり、いずれも草本生で木になる植物は無かった。
 中里層が堆積した海の後背地には、原始的な維管束植物からなる〝草原〟が広がっていたことになる。また、この胞子化石群集は南中国から報告された同時期の胞子化石と共通する種が多数あり、中里層が堆積した場所が、南中国と近かったことも示唆する。
 初期の維管束植物に関する研究は、これまでヨーロッパや北米を中心に行われた一方、アジアのデータは相対的に少ないため、前期デボン紀に起きた植物多様化は地球規模では解明に至っていないという。今回の研究成果などを機に、植物の初期進化への理解が深まることも期待される。
 ルグラン助教は「今後の研究では中里層よりさらに古い『大野層』(猪川町)や『川内層』(日頃市町)など、岩手県の古生代の地層で微化石の解析を続け、データの少ない東アジアにおいて、ヨーロッパや北米と対比できるデータを作成し、陸上植物の初期進化や多様化過程、分布拡大の解明に向けた研究を進めたい」としている。
 古生代は▽ペルム紀(2・5億年~2・9億年前)▽石炭紀(~3・5億年前)▽デボン紀(~4・2億年前)▽シルル紀(~4・4億年前)▽オルドビス紀(~5億年前)▽カンブリア紀(~5・4億年前)──に大別される。大船渡市は、古生代6時代すべての地質が見られることで全国的にも知られる。
 市立博物館ではこれまでも、常設展示で中里層の化石を紹介。コケムシや腕足類、三葉虫などの実物が並ぶ。植物分野の研究が進むことで、常設展示や三陸ジオパークなどへの関心向上にも期待を込める。
 同館の古澤明輝主任学芸員は「日本のみならず、アジアとしても珍しい発見であり、さらに市内で古い化石が見つかる可能性が十分にあることが分かる研究。シルル紀以前の地質を見ることができる場所は全国でも少ない。今後の期待が膨らむもの」と話す。