自分を育んでくれた海へ カキ養殖家目指し修業 古見さん(花巻出身)水産アカデミーへ 中学時代から陸前高田に通う  

▲ いわて水産アカデミー6期生となる古見さん㊧と〝師匠〟の藤田さん

 花巻市出身の古見諒汰さん(19)は11日、水産業の担い手を育成する本県独自の研修機関「いわて水産アカデミー」に第6期生として入講する。研修地として希望したのは、東日本大震災の発生まで縁もゆかりもなかった陸前高田市。震災をきっかけに中学時代から同市のカキ養殖家・藤田敦さん(58)=かき小屋広田湾代表=の元へ通うようになり、自らの夢を育んできた古見さんは、一人前の水産業の担い手となって海へ出ることを目指す。(鈴木英里)

 

 古見さんが陸前高田へ通うようになったのは、中学1年生の時。被災地ボランティアを通じて藤田さんと知り合った母親から「いい経験になるよ」と勧められ、最初は夏休みの3日間だけ、養殖の仕事を手伝ったという。
 「それがすごく楽しくて」と古見さん。その年の冬休みは、自ら進んで藤田さんの元を訪ねた。翌年も、そのまた翌年も、長期休みになると陸前高田へ足を運んだ。「はじめは3日間だったのが、5日間になり、5日間が7日間になり…1週間のつもりで来たのに滞在が2週間になったこともあった」と振り返るほど、作業にのめり込んでいった。
 訪問を重ねるたび、地域の人たちとの関わりも増えた。藤田さんに「次はいつ来るんだ」と誘われることも、地元の人に「また来たの」と喜ばれることもうれしかった。水産業に携わる将来を見据えるようになったのは、ごく自然なことだったという。
 古見さんは高校を卒業すると、まず海上自衛隊に入隊した。「人の役に立つ仕事がしたい」という思いが前提としてあり、そのうえで「海自に入れば船舶の免許も取れる」と考えたからだ。その先には、藤田さんの後を継ぎ、養殖漁家として働くという展望があった。
 その海自を1年足らずで除隊した大きなきっかけは、藤田さんが足を悪くしたこと。昨年秋には左膝を手術し、右膝の手術もまだ残っている。古見さんは「水産アカデミーでも船舶免許は取れると聞いて、『それなら少しでも早くこっちへ来て仕事を覚えたい、力になりたい』と思った」と語る。
 アカデミー入講を勧めたのは藤田さんだ。「ウチだけでやっていると、カキのことしか分からない。アカデミーならロープワークや魚のさばき方も教わるし、同じ立場の友達もできるだろう」と言い、古見さんを「素直で、気の利く性格。小さい時から見ているし安心感もある。息子のように育てていきたい」と父親のように見守る。
 古見さんの家族は、自衛隊に入る時もやめる時も、水産アカデミーへの参加も、その選択を尊重し、喜んでくれた。陸前高田に移り住んでまだ1カ月だが、「取引先の方や友達がカキを『おいしい』と言ってくれる。喜んで食べてくれる顔を見ると『こういう人たちのために生産しているんだ』と思えるし、すごいものをつくっているんだなと実感する」と古見さんは言う。
 11日の開講式では代表あいさつも務める。「実践的な知識を増やし、皆さんに恩返しできるよう頑張りたい」と、漁業者としての自立を目指す古見さんだ。
 同アカデミーは本年度、13人が受講。同市や大船渡市、宮古市などの研修地に住みながら、本県の水産の概要、養殖、漁船、定置網などの各種漁業について学ぶとともに、漁師に必要な技術を身につける。