51歳 最高峰の学びに挑戦 市職員・中村さん 東京大大学院に入学 本業と並行し学生生活 防災分野で博士号取得目指す

▲ 12日に開かれた東京大の入学式に出席した中村さん(本人提供)

 陸前高田市防災課長の中村吉雄さん(51)が東京大学大学院博士課程に合格し、本年度から業務と並行して学業にも励む。絶えず進化する防災について改めて研さんを積もうと一念発起し、日本最高峰の学びやの門をたたいた。「大学院での研究を東日本大震災の教訓伝承、市の防災・減災の取り組みに生かしたい」と、学びの社会還元を見据える。(高橋 信)

 

 中村さんは兵庫県芦屋市出身。防災に取り組むきっかけは、平成7年1月に古里を襲った阪神・淡路大震災だった。当時は東京都内の大学に通い、芦屋に住む家族は無事だったが、同級生の親など身近な人が犠牲となり、自然の脅威に打ちひしがれた。
 「自分の経験と思いを生かすため、専門知識をつけたい」と東京都立大大学院に進学。それまで関心が全くなかった都市防災の研究に2年間励み、修士課程を修了した。
 東日本大震災が起き、「阪神淡路の時、全国からの支援者の存在が心の支えとなった。今度は自分が力に」と、岩手県の任期付き職員を経て、平成27年、陸前高田市職員となった。防災一筋で市政を支えてきた。
 全国各地で激甚災害が頻発し、東日本大震災の記憶風化が進む中、「最先端の研究を学び、防災・減災を学ぶフィールドとしてのまちづくりを展開している市の業務などに反映させたい」との思いを募らせた。50代となり、「あとには挑戦できないかもしれない」と、博士号取得を目指した。
 入試の勉強に取りかかったのは昨年秋。数十年ぶりに英語も勉強し直した。見事、一発で難関をくぐり、本年度から〝防災課長兼東大院生〟に。「正直、自分が一番驚いている」と笑う。避難行動に関する人の心理傾向や防災情報の有効的な伝達手段をはじめ、災害情報学について研究する。
 博士課程の標準修業年限は3年。「オンライン講義などを駆使しながら、仕事に支障が出ない範囲で頑張りたい」と力を込める。
 50代での新たなトライ。12日には日本武道館で行われた入学式に臨んだ。「被災した自治体として10年後、20年後を見据えた防災・減災の施策を生み出す知見を得られれば。学会などでも積極的に陸前高田をアピールしたい」と前を向く。