検証──無投票の大船渡市議選 「なり手不足」それだけか 〝地元〟にとらわれない選択は

▲ 市内各地に設置されたポスター掲示板。最後まで「21」は埋まらなかった

 初の無投票で幕を閉じた大船渡市議会議員選挙(定数20)。人口減少や産業面の停滞など、課題が山積する中でも、有権者は身近な議員を選ぶための1票を行使できなかった。議員の「なり手不足」はもちろんだが、いつの間にか、住民と議会との間に大きな隔たりが生まれたのではないか。無風が浮き彫りにした、市議会の課題に迫りたい。(佐藤 壮)

 

 「選挙は行われないことになりました」
 14日午後5時すぎ、市役所内の選挙管理委員会。担当職員は、翌日から予定されていた期日前投票に関わる人々に電話で連絡を入れた。市役所前の公告板には、無投票を知らせる紙が張り出された。
 休日でもあり、閑散とした駐車場には、鳥のさえずりだけが響き渡った。予想されていたとはいえ、初の無投票はあっけない幕切れだった。
 30分後、無投票の報告を受けるため訪れた市選管の佐々木一郎委員長は「無投票の要因は、ひと言では言い表せないのではないか。さまざまなことを総合的に見直す必要があるのではないか」と語った。



 市制施行後初めて、定数を上回らないまま終わった。新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言下で行われた4年前の前回選は、21人が出馬した。今回に限らず、立候補者数は選挙ごとに少なくなっている。
 現職20人のうち、今市議選を前に不出馬を決めたのは4人。長年議会に尽力したベテランの勇退だけでなく、40~50代での見送りもあった。いずれも後継を指名せず、支持基盤や地域を引き継ぐ形での擁立や出馬は鈍いまま推移した。
 市内有権者は2万8000人余。単純に当選した20人で割ると、平均1400人となる。今回の当選者20人を在住地区別にみると、有権者数が6000人超と多い大船渡町は4人で、他の9地区も各1~2人いる。有権者数の割に議員数が少ない〝空白区〟は生まれなかった。
 今回立候補しなかった出馬経験のある70代男性は「われわれが積極的に探さなかったこともあるが、地域から出そうと思っても、同じ町から出ている候補と票の取り合いになる。共倒れもあり得る。なかなか『出そう』とは簡単にはいかない」と語る。
 今回当選を果たした候補者も「うちの地区は、有権者数を候補者で割ると、1000人を切る。正直、選挙になれば、だいぶ苦しかったと思う」と、心境を明かす。
 近年、全国の市町村議会議員を巡っては「なり手不足」が叫ばれている。大船渡市でも、その影響が色濃く表れている。
 ただ、その言葉だけで片付けては、次につながらない。名乗りを上げる人が少なくなっているのに加えて、市議会に送り出そうとする周囲の意欲や力も、弱まってきたのではないか。
 親戚筋や地域など、これまでの結びつきやコミュニティーが、擁立に直結しなくなっている。年々、その傾向が強まり、今回ついに無投票として表れたと言えるのではないか。
 議員はどうしても、在住する地区、地域の代表として見られがちだ。一方で、同じ地区・地域の中でも住民生活は多様化し、それぞれが抱える悩み・困り事は多岐にわたる。
 持続可能なまちづくりを見据えた新たな地区運営組織の発足が進み、地域ごとに行政連絡員も配置されている。すべての議員が、地区・地域の代表である必要はない。



 今回の無投票を受け、定数見直しの議論は避けられない。人口減少に見合った妥当な数字を探るのはもちろんだが、今後求めるべき議員像を真剣に考える必要がある。
 議員は、さまざまな市政課題を取り上げ、当局と論戦を交わす。一昨年11月の市長選で当選した渕上清市長は子育て分野の充実や、地場企業の振興などを掲げる。少子高齢化が進む中、介護や福祉分野の充実が求められるほか、基幹産業である水産業に関する課題も山積。移住・定住の促進や、NPO団体をはじめ多様な団体とのさらなる協働も求められている。
 告示前の後援会活動では、力を入れたい施策を訴え、支持を求める動きは今回も広がりを見せなかった。地区・地域の結びつきも大切だが、同じ問題意識を持つ層の声をまとめ、行政課題に取り組む姿勢を分かりやすく掲げて議員を目指す姿勢も重要になる。〝なり手〟を確保するためには、有権者も、より市政に関心を抱かなければならない。



 議員はこれまで、時代や地域の変化に順応し、住民意見をくみ上げ、行政に生かす職責を果たしてきただろうか。無投票で浮き彫りになった議会への関心の薄さは、これまでの議員活動に対して住民が無言の疑問を投げかけた結果とも言える。
 次任期では、さらに住民の議会離れが進むのか、それとも活気ある運営をつくり上げるか。市議会の未来は、20人の行動に託される。