漆塗り極め能登復興の力に 輪島の研修所に通う今野さん(大船渡市出身) 授業再開まで花巻で活動 

▲ 今野さんが住む花巻市の県営住宅。部屋で一人黙々と作業にあたり、技術を高める

 大船渡市赤崎町出身で、石川県輪島市で漆塗りを学ぶ今野風花さん(24)は今月から、花巻市の漆職人のもとで技術研さんに励んでいる。今年1月の能登半島地震の影響で、通っていた石川県立輪島漆芸技術研修所が休講となり、授業が再開するまでの期間、古里・岩手で活動することを決意。東日本大震災を経験したからこそ「必ず乗り越えられる」と復興を信じる今野さん。漆芸を極めたいという熱い思いに能登再興を支える覚悟を重ね、きょうも黙々と日本伝統の作業に汗を流す。(菅野弘大)

 

震災経験「乗り越えられる」

 

岩手の職人のもとで漆塗りを学ぶ今野さん

 今野さんが漆塗りと出合ったのは大学時代、選択科目で受講したのがきっかけ。漆塗りの技術を生かして作られた漆器は、長いもので寿命100年ともいわれ「作ったものが長い間使ってもらえるところに魅力を感じた」と、漆職人の道を志した。
 大学卒業後の進路を模索していたところ、SNSを通じて漆や起業などのコンサルティングも手がける㈱松沢漆工房(盛岡市)社長の松沢卓生さん(51)と知り合った。後継者の育成にも力を入れる松沢さんの勧めを受け、昨年4月に漆芸の技術伝承者養成などを行う研修所の専修科(2年制)に入学。施設近くの県営住宅から通いながら、木地に漆を塗る技術や蒔絵、沈金などの装飾技法を、実技を中心に学習してきた。
 能登半島地震発生時は、大船渡の実家に帰省中だった。テレビから流れる「津波警報」の文字に「頭が真っ白になり、言葉が出なかった」とショックを受けた。研修所の同級生やアルバイトをしていた漆器店の人たちの無事を確認し安堵したが、連日の報道で輪島朝市をはじめ、日本の古き良きまちなみが失われてしまったことを知った。
 地震の影響で、研修所の建物にも亀裂が入り、施設内には道具が散乱。今野さんのもとにも休講の連絡が入り、「再開のめどが立たず、何をすればいいのか」と悩んだ。そんな状況の中、24歳の誕生日を迎えた1月11日、松沢さんから「花巻の職人のもとで学んでみないか」と誘いを受けた。
 「思いがけない誕生日プレゼントだった」と笑う今野さん。今月7日に花巻市の県営住宅に移り住んでからは、蒔絵の商品作りを手伝いながら漆塗りの技術向上に励む。人の手に渡る商品を手がけるとあって、緊張もするというが「受け取ってもらえる相手がいると思うと、やりがいを感じる。漆を触っていると不安が和らぐ。こうした環境を準備してくださりありがたい」と感謝する。
 蛸ノ浦小5年生で東日本大震災を経験。実家は寸前で津波被害を免れたが、見慣れたまちは変わり果てていた。赤崎中入学時は間借りした大船渡中校舎に通い、その後はフレアイランド尾崎岬に建てられた仮設校舎で過ごした。大船渡高に進学し、学校生活を送りながら、支援を受けて復興へと進む古里の姿を眺め、自らを奮い立たせてきた。
 「美しいまちなみが失われたことへの寂しさも感じるが、大船渡とはまた違った形でも復興は進んでいくと思う」と今野さん。「能登半島地震の被災地も、時間はかかるかもしれないが必ず復興すると信じている。自分は今、目の前にあるものに向き合っていくだけ」と語り、古里から復興の力になる決意を新たにしている。
 松沢漆工房では今月末まで、今野さんが漆工作業で使う道具や材料など、花巻での活動資金をクラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/749849)で募っている。