被害拡大で農家悲鳴 イノシシの出没急増 町は住民と協力して対応へ

▲ キクイモなどがイノシシによる被害に遭った佐藤さんの畑

 全国的にイノシシによる農業被害が増えている中、住田町でも被害が急増している。今年も、すでに町内の多くの田畑が食い荒らされており、農家は悲鳴を上げる。町では金網柵や電気柵シートの設置への補助などの対策も講じているが即効性はなく、頭数増加抑制のために狩猟免許取得者を増やすなど、住民とも協力しながら対応に当たっていく考えだ。(清水辰彦)


 「このままじゃ、農業やる人がいなくなってしまうよ」──。住田町世田米の佐藤勝朗さん(83)は3月、自身の畑で育てていたキクイモやミョウガをイノシシに根こそぎ掘り返された。
 平成のはじめごろから農作物を育ててきた佐藤さん方の畑。シカ対策として、漁網を再利用した手製の防護網で囲っていたが、傷んだ部分を突き破ってイノシシが侵入。収穫を控えていたキクイモのほか、自家用のミョウガが被害に遭った。
 被害を受けたキクイモは、収穫後に直売所に卸そうとしていたもの。「こんなことが続いたら、とても農業はできない」と佐藤さんは肩を落とす。
 佐藤さんは町内にある別の畑でも、タマネギがサルの被害を受けており、「シカもサルも、イノシシも増え過ぎている。保護はもちろん大事だが、増加抑制のために何か対策を取ってもらわないと農業が衰退してしまう」と警鐘を鳴らす。
 県環境生活部によると、全県のイノシシ捕獲頭数は、平成25年~29年度は30頭台から90頭台で推移していたが、30年度に243頭と急増。その後も、令和元年度346頭、2年度662頭、3年度945頭、4年度979頭と増加を続けている。
 頭数増加に伴い農業被害額も拡大しており、平成25年度に251万円だったものが令和4年度には4069万円にまで増え、農家への影響は甚大なものとなっている。
 イノシシの捕獲実績のある市町村は、平成28年度は県南エリア中心に8市町だったが、30年度には沿岸、盛岡、県北でも増え始め、令和元年度は18市町、2年度は27市町村、3年度に28市町村、4年度は31市町村と全域に拡大している。
 住田町によると、町内でのイノシシ出没は、4年度から5年度にかけて一気に増加したという。このことは、耕作放棄地が年々増加することによって山と人里の「境目」があいまいになってきていることも、要因の一つとして考えられる。
 生息の形跡は平成26年度から確認されていたが、初めて被害が出たのは令和3年度。同年度は少額の被害だったが、4年度は稲や野菜、芋類合わせて18万円ほどが被害を受け、5年度は町で現在被害額をとりまとめているが、大幅に拡大する見込み。6年度もすでに複数の被害が確認されている。
 町では単独事業として「シカ防護網等緊急設置事業」を実施。町内23地域に設置されている農林業振興会による防護網などの購入に対する補助上限を、これまでの20万円から本年度は40万円に引き上げた。通常の防護網に加えて金網柵や電気柵シートも補助対象に追加した。
 ただ、イノシシの被害防止のためには頭数の増加を抑える必要がある。町でもわなの貸し出しなど対策を取っているが、頭数の急増に対応が追いついていない現状がみられる。
 町では狩猟免許の取得にも補助金を設けるなどして、行政だけでなく、住民と協力しながら引き続き被害防止に努めていく。