山あいの地・住田の防災1 —災害の被害想定— 個々の意識高揚を

▲ 最大規模の想定では、町内のほとんどが「危険区域」となる

 平成23年に発生した東日本大震災で、大船渡、陸前高田両市は甚大な被害を受けた。一方、内陸部に位置する住田町では大きな被害はなく、独自に木造仮設住宅を建設して被災者を受け入れるなど、後方支援活動に大きな役割を果たした。ただ、近年は自然災害は激甚化・頻発化している。同町のように津波被害の恐れがない内陸部においても、豪雨による土砂災害・水害などが想定される。今後起こりうる災害に、行政や自治組織、住民はどのように備えているのか。「山あいの地」の防災・減災を検証していく。(清水辰彦)

 

 「ハード面での対応には限界がある。大事なのは個々の防災意識。まず逃げてもらうこと」──。町の防災担当者は、避難意識の重要性を強調する。
 県による1000年に1度規模の大雨想定では、公共施設が集中する世田米の中心部では、国道107号から気仙川の間に位置する川向地内や世田米商店街のほぼ全域で浸水する想定だ。
 町役場は3~5㍍の高さで浸水。近隣に位置する消防住田分署や世田米小学校、商店街、福祉施設など中心部に構えるほぼすべての建物が被害に遭う。
 最大規模として、気仙川・大股川に流域平均で2日間で589㍉の降雨があったと設定。流域全体での降雨を想定しているため、気仙川沿いでは、広範囲にわたって河岸浸食や氾濫流による家屋倒壊が想定される。
 町内には沢沿いに位置する集落も多いため、世田米、下有住、上有住の全地区合わせて約2100世帯のうち、4割が浸水すると想定されている。
 気仙川流域は浸水被害が想定される一方、面積の9割が森林と、周囲を山林に囲まれる住田は土砂災害の危険も含む。県が指定する土砂災害計画区域等指定状況をみると、住田町は大雨や地震などによる土砂災害の恐れのある箇所が計497カ所。内訳は土石流警戒区域196カ所、急傾斜地の崩壊警戒区域は301カ所となっており、町全域が山地災害危険地区と言える。



 町では災害予防、食料・生活必需品供給などさまざまな計画を盛り込んだ地域防災計画を平成28年に策定したが、8年が経過し、その間にも各地で自然災害が発生していることも踏まえ、本年度に計画を改定する。
 計画には引き続き、河川改修や砂防堤防の設置などを定めていくが、ハード面での対応には時間的にも、予算的にも限界がある。いつ起こるか分からない災害において人的被害を最小限に抑えるには、やはり平時からの防災意識の啓発が必要不可欠だ。いざという時に迅速に行動するためには、定期的な訓練も欠かせない。本年度の町総合防災訓練では、災害時に避難所運営に当たる各地域の自主防災組織とも連携しながら、より実践的な訓練を行う予定としている。



 集落の孤立化への対応も求められる。町内では道路が単線で通り抜けできず、災害で道路に損傷が生じる恐れがある「孤立化想定地域」として下有住の火の土地域、上有住の蓬畑地域、桧山地域、世田米の合地沢地域を挙げている。予防としては災害に耐えうる道路の整備、固定電話・携帯電話に頼らない通信手段の確保、発災後は道路の早期復旧や早期通信確保が求められるが、ハード面での整備に加え、各地域の自主防災組織との意見交換を行いながら、ソフト面含め対策を進めていく必要もあるだろう。