築100年の建造物に光を 旧気仙銀行盛支店を防災観光拠点に 公開利用へ あすからクラウドファンディング

▲ 現在は学校から出された「被災ピアノ」などが並ぶ室内

 大船渡市盛町の商店街通りに構える旧気仙銀行盛支店の建物を活用し、東日本大震災の津波痕跡群を保存した史料館や、簡易宿泊できる機能を整えようと、震災以降に三陸沿岸部でカメラマンとして活動してきた女性が奮闘している。26日(金)からはクラウドファンディングを始め、厨房やトイレ、シャワー室の整備資金などに充てる。コンクリート建築黎明期に建築された約100年の歴史を未来に残す文化財としての申請・活用も見据え、協力を広く呼びかける。(佐藤 壮)

 

コンクリート建築黎明期の約100年前に完成した建物の外観

 取り組みを進めているのは、盛町在住で非営利活動団体・PR4 5代表の新藤典子さん(56)。20年ほど前から歴史的建造物を有効活用するプランナーを職業とし、多くの古い建物を目にしてきた。太平洋戦争の引き揚げ者に関する企画展参画の経験などから、震災の現物や経緯、証言者を史料として保存し、後世に残していこうと、平成23年に同団体を立ち上げた。
 三陸沿岸部で災害復旧を記録するカメラマンとして活動するとともに、津波で浸水した道路のアスファルト片といった痕跡を集めてきた。発災から13年が経過し、記録活動から伝承活動に移行している。
 定期的に開設される木町市場にほど近い商店街沿いに構える2階建ての旧気仙銀行盛支店は現在、新藤さんが所有。「STAY BANK SANRIKU」と名付けている。
 竣工は大正14(1925)年。鉄筋コンクリート造の2階建てで、当時の沿岸ではまだ新しかったコンクリートの技術者や職人を内陸から招き、地元産業であるセメントを用いた。屋上にある避雷針は、当時の商店街で一番高い建物だったことを物語る。
 金融機関として代々使われ、昭和59年の「サン・リア」オープンと同時期に、地域のカルチャーセンターとして改装。東日本大震災の地震で、柱がたわむといった被害を受け、解体の危機にあった。
 津波の痕跡となる物品などの保管場所を探していた新藤さんは3年前、この建物が売りに出されていたことを知り、正面からの外観を目にして、活用を決意。史料館や拠点空間としての可能性を見いだした。
 「学術的な存在価値が評価されずに失われるのは、違うと思う。活用して世に出せば、最古級の材料価値が誰かに分かってもらえるのではないか」と、自らで躯体や床面の補修にも乗り出した。
 現在目指しているのは史料館としての機能に加え、簡易宿泊できる空間づくり。建物には水回りが施されていないため、クラウドファンディングで調達する資金を生かし、厨房やトイレ、シャワー室などを整備する考え。将来的には、食事と仮眠場所を提供する小規模複合型の防災観光拠点としての運用を見据える。
 現在はアスファルト片や防潮堤の部材、水門ゲートの鉄片などの解体断片に加え、陸前高田市の旧気仙中学校から出された「被災ピアノ」が並ぶ。今後、大船渡市の旧越喜来小学校や旧崎浜小学校で使われてきたピアノの一部も置く。
 市の登録有形文化財としての指定も目指す。新藤さんは「この建物には、100年前の部材がそのまま保存されている。史料館としては建物自体の現物保存・展示に加え、(被災ピアノなど)中に格納しているものが、この施設の特徴となる。石巻や大槌など各地に現地保存されているものを巡る防災ツーリズムの拠点にもしたい。大型の被災ピアノの搬出では、地域の方々の『人力』を借りた。『こんなもの』と、当時は思ったものが銀行の中で『価値』に変わるのを見守ってほしい」と、今後を見据える。
 クラウドファンディングの目標額は1000万円。期間はあす26日からで、インターネットサイト「READYFOR」のプロジェクトページ=別掲QRコード参照=で受け付ける。