市が在宅医療を強化へ 二又診療所が協力 5月7日から市全域で訪問診療  

▲ 「元気な様子でとてもうれしい」と在宅患者に語りかける岩井医師

 陸前高田市は、人口減、高齢化の進行を踏まえ、在宅医療の強化に踏み切る。矢作町の市国保二又診療所(所長・岩井直路医師)に協力を要請し、一部地域で展開している同所の訪問診療について、5月7日(火)から市全域に拡大する。平日の日中は岩井医師(68)が往診、看取りにも応じ、夜間や早朝は訪問看護ステーションが対応することで24時間体制のシフトを敷く。利用は、県立高田病院が運用する事前登録制システム「ほっとつばき」への登録が条件。高齢者が自宅で最期まで過ごせるよう、専門職が手を取り合ってサポートし、安心して暮らせる地域社会構築の青写真を描く。(高橋 信)


 通院困難な患者のため、通常診療の合間を縫って週1回のペースで訪問診療を行っている二又診療所。大型連休前最後となった24日は、岩井医師と看護師の計3人が矢作町内の2軒を回った。
 「お変わりありませんか」「元気な顔を見られて何よりです」。岩井医師が患者に優しく声をかけながら病状や健康状態を確かめた。
 菅野かづ子さん(80)は寝たきりの夫・悦朗さん(81)を診てもらっており、「夫は大切な人。寝たきりで動けないので、先生に来てもらえるのはありがたい。在宅医療は高齢者にとって非常に助かる」と話した。
 2月頃から訪問診療を受けている佐々木千鶴子さん(77)の娘、昌子さん(54)は「病院の入退院を経て認知症の症状が進んだが、家に戻り、食事をしっかり取るようになったら元気になった。岩井先生には病気以外の悩みも熱心に聞いていただき、安心につながっている」とうなずいた。
 二又診療所は来月からのエリア拡大に合わせ、訪問診療日を毎週火・木曜日午後の週2日に増やす。1日当たり5件程度の診療を想定している。
 急な往診や看取りは通常診療と調整しながら、平日の午前7時頃から午後9時頃まで応じる。それ以外の時間帯は、訪問看護ステーションが対応することとしている。
 県立高田病院の「ほっとつばき」は、在宅患者らが体調を崩したときに夜間や休日でも入院できるシステムで、登録には同院医師の事前診察を受け、さらにDNAR(心肺蘇生を希望しない意思)の同意が条件。これにより岩井医師が往診や看取りに対応できない土・日曜日や祝日は、同院に入院可能となる。
 訪問診療の申し込みは、診療所へのファクスや電話などで受け付ける。希望する患者とのつなぎ役としてケアマネジャー(介護支援専門員)とも連携していく。
 国立社会保障・人口問題研究所が昨年12月に発表した地域別将来推計人口によると、陸前高田市の人口は令和32(2050)年に9617人となり、令和2(2020)年との対比で47・3%減。高齢化率は55・1%と推計されている。
 市や診療所によると、人口減を背景に、気仙の外来・入院患者数は減少する一方で、在宅患者数は令和22(2040)年以降をピークに増加していく推計が示されている。
 こうした医療と介護の複合ニーズが一層高まる見通しを踏まえ、市は在宅医療の充実に乗り出すことを決めた。1日平均患者数が市国保広田診療所のおよそ半分である二又診療所のマンパワーを生かそうと協力を依頼し、岩井医師が応えた。
 岩井医師は「家で最期を迎えることは幸せなまちづくりにもつながる。訪問看護、県立高田病院、ケアマネなどと連携し、市民の理解・協力をいただきながら、持続可能な在宅医療の体制構築に貢献したい」と意欲をみせる。
 佐々木拓市長は「岩井先生ら関係者の全面協力に大変ありがたく思う」と感謝。「高齢化が進み、医療の充実は市民にとって非常に身近で、重大な課題。市民が住み慣れた地域で幸せに暮らすための方策を模索していきたい」と見据える。