廃線区間を〝ラストラン〟 県交通大船渡営業所配備の最古参バス 引退前に貸し切り乗車会が実現 気仙
令和6年5月14日付 7面

大船渡市立根町の岩手県交通㈱大船渡営業所(舘洞良明所長)に配備されている最古参の路線バス用車両が今月で引退するのを前に、このバスを貸し切り、気仙両市の廃線区間を巡る乗車会が11日に行われた。引退を知った県内外のバス愛好者が集まり、今は県交通が運行していない地域での車体と風景を写真に収めるとともに、長年地道に運行・整備に当たった営業所関係者への感謝を込めた。(佐藤 壮)
引退する車両は、ナンバーから「1184」と呼ばれる中型バス。59人乗りのいすゞ自動車製で、平成9年5月に登録された。デジタル化が進む中、路線バスでは唯一、行き先を表示する方向幕がアナログの「幕式」だったが、機能面には問題なく運行を続けた。
もともとは国際興業戸田営業所=埼玉県=に新規配属され、平成19年に岩手県交通大迫バスターミナル=花巻市=に移り、ターミナル閉所に伴い、同30年に大船渡営業所配属となった一台。今年3月末に県交通として陸前高田住田線運行が終了し、営業所内の車両減を進める中で役割を終える。
同車両引退にかかる2月27日付の本紙報道を受け、県内外のバス愛好者の間で話題に。撮影や見物に訪れる姿が増えるなど注目を浴びるようになった。さらに、県外のバス愛好者から貸し切りの申し出があり、引退時期が当初の4月から5月に延期された。
乗車会には、県内外から約10人が集まった。バス愛好者ならではの視点でルートが組まれ、三陸町越喜来の北里大学三陸キャンパス三陸臨海教育研究センターや、陸前高田市矢作町の「的場」バス停留所などが目的地となった。キャンパスがある崎浜地域や、同バス停がある生出地域はいずれも、県交通路線は廃止されている。
矢作町内は、狭い道路での走行が続き、バス停付近はノスタルジーあふれる風景が広がり、県交通バスを追い続けるファンにとって、撮影スポットの一つとして親しまれてきたという。貸し切りとあって、この日は参加者が希望した場所で停車し、撮影時間も設けられた。
走行距離180㌔に及ぶツアーを終え、晴れやかな表情で降りてきた愛好者たち。自ら制作したこのバスの模型を手にしながら、さまざまな思いを寄せる姿も見られた。
乗車会を主催した神奈川県横浜市在住の小川圭一郎さん(39)は「ボディーはだいぶ〝頑張ってきた感〟はあるが、山坂は苦もなく走行していた。このバスは、愛好者にとって人気があった大迫バスターミナルの最後の生き残りでもある。今回乗車会が実現し、さまざまな場所にも行くことができて楽しかった」と語り、笑顔を見せた。
バスは今月まで、気仙地区内の路線区間で走行する。舘洞所長(38)は「このバスが貸し切り運行されるのは、おそらく最初で最後。ひっそりと役割を終えるバスが多い中で〝幸せ者〟だと思う。長年大事にしてきた運転手や整備士のおかげ」と話している。