■視点/市議会と市民の語る会 議員の監視・政策提言に期待 人口減など課題山積 多様な要望にどう向き合うか

▲ 市内全11地区で開催された議会と語る会

 陸前高田市議会(及川修一議長、16人)の「議会と語る会(議会報告会)」は13日から17日まで、市内全11地区を会場に開かれた。議員が地域に出向き、市民と懇談する形式は、昨年9月の改選後初めて。合計で約200人の市民らが参加し、佐々木拓市長の選挙公約の進ちょく状況や少子高齢化・人口減、産業振興、移住・定住の対策などを巡って意見交換した。寄せられた多様な声に、各議員、そして合議体の議会はどう向き合い、市政に反映させるべきか、語る会を振り返りつつ考えたい。(高橋 信)

 

難題巡り議論展開

 

 「貴重な意見をたくさんいただいた。議会の視察などが市政にどのように反映されているのか広報の手法も考えていきたい。もっとさまざまな年代、立場の人と対話していきたいと再認識した」。
 及川議長は11カ所を回り終え、こう総括した。16議員が3班に分かれ、全4日間の日程で行われた今回の語る会。懇談では人口減、産業関連の課題が取り上げられる場面が多かった。
 基幹産業の第1次産業は温暖化や鳥獣被害、物価高騰などの影響を受けている。「このままでは漁業者がますます減る」「イノシシの活動範囲が広がっている」。生産者らからは早急な対策や支援を求める切実な声が聞かれた。
 少子高齢化に関しては「子に帰ってきてほしいが、働く場所がないからかなわない」「出会いの場が少ないから、独身の人が多いのでは」「小学校の統合問題の議論は待ったなし」「関係機関と連携し、地域医療を守る対策を具体的に考えて」などという意見が聞かれた。
 長引いた復旧・復興事業が人口流出を加速させた地域では、住民の安全・安心を守る消防団を維持するすべが話題に。U・I・Jターンの促進、生産年齢人口増に向けた就労支援にかかる議論もあった。いずれもかねてより当局、議会が見つめてきた課題ではあるが、今後も過疎化が進むまちの命題となることが語る会で鮮明化した。


市長の選挙公約

 

 「大学誘致と言いながらサテライト的なことでちゃかされるのは論外」「4年間で1000人の雇用創出に関しては何もしていないのではないか」。佐々木市長が掲げる選挙公約を巡り、ある会場で市民からこんな厳しい指摘が寄せられた。別の会場でも公約の進ちょく状況を問う場面は多く、期待度の高さと表裏一体である「本当に達成できるのか」という不安がうかがえた。
 選挙公約は市長の任期である4年間で達成する市民との約束であり、任期2年目の今は公約を果たすべく市長が「種をまいている真っ最中」だ。大手水産会社によるサーモンの海面試験養殖の実施を後押しするなど、一部はすでに具現化している。ただ、市民はさらなる目に見えた変化を求めているのか、「議会で取り上げたりしないのか」と議員への注文も相次いだ。
 そうした市民の期待と不安に対し、行政への監視機能を有する議会はどうあるべきか。
 市長を支持する議員は「大手水産会社の誘致や給付型奨学金の創設など一部公約は達成、進ちょくしている。大学誘致などはさまざまな可能性を探っている段階にあり、見守ってもらうよう市政の情報を市民に伝えたい」と話した。
 市長と距離を置く議員は「市長が何を考えているのか、何をしようとしているのか、市民は分かっていない状況であることが改めて分かった。引き続き議会内でも公約の実現性などを取り上げたい」と見据える。


7月には新たな試み

 

 地区別の住民参加者数最多は長部の約40人、最少は米崎などの10人以下。人数の多寡は地域側の関心度を見極める一つのバロメーターになるが、議論の良しあしの尺度になるとは言えない。今泉地区は10人に満たなかったが、出席した5議員とすべての住民が双方向、かつ建設的な議論を展開し、聞き応えがあった。逆に大規模になればなるほど、女性や若者は意見しづらくなる可能性も考えられる。ターゲットを絞った小規模の「語る会」があってもいい。
 議会は本年度、多様な声に耳を傾けるべく、市民との新たな対話の場創出を模索している。7月にはワークショップ形式の語る会を試みる計画。どのような議論が交わされるか注視したい。
 改選を経て、定数が2減の16人となり、ますます一人一人にのし掛かる責任が増した議会。政治姿勢や政策理念は一様ではないが、1万7452人(3月末現在)の前に立つ16議員が見据える先は「まちの明るい未来」という同じ方向を向いている。地域の声を市政に届ける単なる伝言役ではなく、市民から吸い上げた地域課題を議員間でもみ、全国の先進事例を調査・研究しながら、政策に転化して立案・提言する活動を推進していってほしい。