6月上旬に初水揚げへ 湾漁協とニッスイのサーモン試験養殖事業 市が発表 今季は150~200㌧を計画

▲ 広田漁港の試験養殖場

 陸前高田市の広田湾漁協(砂田光保組合長)と水産大手の㈱ニッスイ(浜田晋吾代表取締役社長執行役員、本社・東京都)が、昨年11月から広田湾で共同実施しているサーモンの試験養殖について、同市は6月上旬に初水揚げが行われると発表した。試験1年目の今季は来月中に約150~200㌧の水揚げを計画。一部は市内飲食店などに出荷されるといい、市民らも味わうことができそうだ。本格的な事業化は、来年秋以降を見込んでいる。(高橋 信)

 

 試験養殖場は広田町の広田漁港。海面いけす2基で稚魚を試験的に育て、周辺の海洋環境や他の漁業活動への影響がないか慎重に調査している。
 市によると、成育は順調といい、初水揚げ日は6月5日(水)を予定。ただ海況次第で前後する可能性がある。市内外の工場で1次加工されたあと、一部は市内の飲食店などに出荷される見通し。水揚げは6月末まで続く。
 サーモンの養殖事業を巡っては、佐々木拓市長が昨年4月、ニッスイ関係者と面談した際、会社側から市内でサーモンの海面養殖ができないか提案を受け、計画が動き出した。空いていた漁場の有効活用にもつながることなどから、同社と漁協との交渉も順調に進み、同年8月、事業を試験的に実施することが決まった。
 すしネタとしても人気のサーモン。しかし、近年は全国で記録的な不漁に陥っており、そうした状況下、熱い視線が注がれているのが持続可能な養殖事業だ。
 市によると、国内では100カ所以上でサーモン養殖が行われており、県内でも不漁の秋サケを補完しようと、久慈市、宮古市、山田町、大槌町、釜石市で海面養殖が展開されている。
 全県における海面養殖の令和4年度生産量は1191㌧。県内で先駆けて本格事業化に乗り出した久慈市の同年度水揚げ金額は約3億4000万円で、ニッスイが事業展開している大槌町の同年度水揚げ金額は約3億円だった。
 陸前高田市では昭和50年代、広田湾でギンザケ養殖が行われたが、当時はすしネタとしての需要がほとんどなく、価格の低迷などを受け、すべての経営体が廃業。イワシなどを餌としていたことから、海洋環境が悪化した経緯がある。
 その後、餌の改良や効率的に餌を与える自動給餌システムの導入が進み、海洋環境への影響を大幅に減らした先進的な養殖が国内外で浸透。県内でも水質や海洋環境が悪化している事例は報告されていない。
 ニッスイは4月末、同市の水産加工会社、㈱武蔵野フーズの全株式の譲渡を受け、同社を取得。広田湾で養殖したサーモンを含め、同社工場を拠点に生食用製品の生産に取り組む。
 佐々木市長は初水揚げ日の決定を受け、「試験養殖が順調に進んでいることについては本当に良かったと安どしている。環境面でも特に問題は認められていないと聞いている。本格的な操業に向けて良い方向に向かっている」と語った。