ハイカー受入体制充実を 気仙 みちのく潮風トレイル全線開通きょう5周年 地域資源活用・保全の取り組みも
令和6年6月9日付 1面

みちのく潮風トレイルの全線開通から9日で5周年を迎える中、気仙では、さらなる受け入れ体制充実に向けた関心が高まっている。大船渡市の一般社団法人大船渡地域戦略(志田繕隆理事長)は本年度、観光庁のモデル事業に採択され、気仙を含む宮古市~宮城県気仙沼市で、宿泊や飲食など地域の事業者による合同勉強会の開催や、ハイカーに有用な情報を一元的に提供する機能強化を進める。気仙など本県沿岸南部では、ハイカーが利用しやすい施設情報が十分ではないといった課題も浮かび上がる中、地元事業者が地域資源を生かし、守る取り組みを目指す。(佐藤 壮)
本年度、観光庁は「地域の魅力を後世に繫ぐサステナブルツーリズムコンテンツ高度化事業(調査事業)」に、大船渡地域戦略を含む全国11団体からの申請を採択。観光利用を地域資源の保全に還元する仕組みづくりや、総合的なサービス水準向上などを図る取り組みを、補助金や専門家による助言などを通じて支援する。
大船渡地域戦略が提案したのは「地域の魅力で紡ぎ、ハイカーと共に育てる、長く歩く道」。みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市から福島県相馬市まで太平洋沿岸の1000㌔超をつなぎ、令和元年6月9日に全線開通した。年々認知度が高まり、今後も海外ハイカーの増加が予想される一方、長距離ゆえにエリアごとの課題も存在する。
気仙を含む岩手県沿岸南部~宮城県北部は、交易の道として栄えた三陸浜街道や、リアス式海岸の半島を巡るなど、自然や地域に根ざした生活、産業を堪能できるコースとして知られる。三陸復興国立公園・碁石海岸も含まれ、リュック姿で巡る姿も多く見られるようになった。
一方、観光や宿泊、飲食など地元事業者による受け入れ体制整備や、広域連携には遅れも指摘されている。採択を通じ、潮風トレイルの自然や文化、歴史、産業など、人々の暮らしやなりわいのさらなる活用を図る。NPO法人みちのくトレイルクラブをはじめ関連団体や地域団体との連携による取り組みを見据える。
事業エリアは気仙両市に加え、宮古市、山田町、大槌町、宮城県気仙沼市。採択を受け、地域事業者の参画を促していく観点から、みちのく潮風トレイル全般に関する合同勉強会を開催する。
トレイルでは、全線を踏破する「スルーハイク」だけでなく、数泊しながら一定区間を巡る「セクションハイク」、1日だけの「デイハイク」など、多様な楽しみ方がある。それぞれで求められるサービスや環境にも違いがある中、モニターツアーを計画し、受け入れ体制の充実を目指す。
開通から5年を迎え、気仙を含む区間は課題だけでなく、冬季も歩きやすいといった強みも認知されてきた。三陸観光の弱点を補う糸口にもなり、観光コンテンツの充実や広域周遊ルートづくりにも力を入れる。
また、ハイカーにとって役立つ情報を一元的に把握できるマップブックの作成など、受け入れ機能強化も進める方針。ハイカーの荷物配送や旅客配送システムに関する研修も見据える。
地元産業・サービスのかかわりを充実させ、地域経済の活性化を図ることにより、地元関係者による環境保全の循環を見据える。大船渡地域戦略では「永続的な保守保全を目的とした循環型ロングトレイル文化の確立を目指したい」としている。
大船渡地域戦略は、令和3年9月に設立。大船渡さんぽに加え、「恋する旅行。大船渡」と題したモニターツアーなどを展開し、市内事業所を中心に組織。昨年、観光庁から観光地域づくり候補法人(候補DMO)に登録され、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに、地域経営の視点に立った観光振興に関する取り組みを展開している。
また、同組織にも参画している岩手開発観光内の地元密着型旅行サイト・三陸ツアーズの「おおふなトレイル」は、月1回ペースで市内のトレイルルートを巡るイベントを企画し、2年目に入った。参加者が増加傾向にあるほか、宿泊滞在につながるといった波及効果も生まれている。