視点/大船渡市スポーツ施設整備基本計画の中間見直し案㊦多様な観点からの議論

現状、未来を見つめる機会に 「選択と集中」問われる行政と議会

 

 主要施設のうち、盛町の市民テニスコートは、利用件数はコロナ禍でも年間2000件台を維持してきた。電気料などからなる維持管理費よりも、利用料収入が上回る〝黒字運営〟が続き、料金収入は市民体育館を上回る年もあった。
 中間見直し案で市は「立地条件などから各層が利用しやすく、風の影響を受けにくいなどプレー環境が安定している。拡張整備により、一層の活用が見込める」とする。現状は、稼働率が高いがゆえに予約が取りにくく、観戦エリアが限定的で、車道を経由する駐車場からコートへの動線には危険性もある。
 現計画でも、隣接する田中島グラウンドを生かして拡張し、現行の5面から、県大会規模の大会開催も可能な8面とし、200席程度の観客席増設、駐車場50台程度の確保が盛り込まれていた。見直し案では、概算事業費用が2億円で、6年度の仕様決定後、詳細設計、施工を経て、9年度の供用開始を目指すスケジュールが描かれた。
 令和2年度の策定協議時、テニスコートの増設方針に関しては、目立った異論はなかった。今回、その事業費や、大会誘致・開催の実現性を巡って、さまざまな意見が寄せられた。
 事業費の妥当性に加え、周辺におけるテニスコート整備も話題に上った。現計画策定後、陸前高田市広田町の県立野外活動センター・ひろたハマラインパークに8面が整備されたほか、大船渡一中の新グラウンドにも砂入り人工芝の4面に加え、夜間照明が設けられた。
 これまで多く利用されていた空間が、今後も同じように利用されるか──。テニスコートの議論は、さまざまな変化を見極めながら将来像を見いだす視点の大切さを投げかけた。
 ならば、議会で議論されなかった分野にも、光を当てなければならない。少子化によって、どの競技であっても、各小中学校単位でチームを組むには難しさが生じている。部活動の地域移行やクラブチーム化、学区の枠を超えたチーム編成が進む。団体の枠組みが変わりつつある中で、将来においても使いやすい施設であるかどうかも考える必要がある。
 また、3x3(スリー・エックス・スリー)やスケートボード、BMX、スポーツクライミング、ブレイキンといったアーバンスポーツは、オリンピック種目となっただけでなく、市内でも愛好者が増え、各種イベント・大会も開催されている。交流人口や地域活性化、大船渡市としての独自性を打ち出す視点も求められる。
 変化が激しく、大船渡の10年後、20年後を思い描くことは難しい。市営球場の議論でも、議員からは「佐々木朗希投手の育った所でろくな球場がないのは、悲しいかなと思う。夢を捨てる必要はない」「防災関係に結び付ける。市が国に対して提案して、さまざまなことに絡めながら、財源を確保していくことが求められるのではないか」との声もあった。将来像を掲げ、そこに向かって努力する姿勢も欠かせない。

 過去と現状を見つめ直し、将来を思い描く——。今回の議論では、東日本大震災から13年が経過した中、復旧・復興事業の〝その後〟を検証する重要性も浮き彫りにした。さらなる災害に備える体制は十分か。計画に無理や不足はなかったか。浸水被災域では当初思い描いていた理想像からほど遠い状況に直面する今、何ができるのか。
 また、2年目に入った渕上市政の試金石ともいえる。就任以降、市長の言葉からは「選択と集中」がよく出てくる。人口減少が進み、財政面でも歳入確保が厳しくなる中で、渕上市政が難局をどう乗り切ろうとしているのか。姿勢の一端が見える機会となる。
 全員協議会では、市営球場一つをとっても、多様な観点からの発言が相次いだ。議会側も、当局提案に対して意見を寄せる〝受け身〟ではなく、具体的なあり方を積極的に示す流れも重要になるのではないか。4月の市議選は市政史上初の無投票に終わっているだけに、市民の声を聞き、訴え、市政に反映させなければ、議会のさらなる関心低下につながる。
 スポーツ施設の将来は、子どもを含め幅広い世代が関心を寄せる。さらに、防災、まちづくり、財政運営と、さまざまな要素が複雑にからみ合う。見直し案の議論を切り口に、停滞感がただよう大船渡市に、課題解決や新たな活性化のヒントが生み出せるか。行政や議会の姿勢が、今後も注目される。