陸上移設展示3年目の気仙丸── 修繕、ストーリー発信に注力 「俵物三品」流通の歴史も切り口に

▲ おおふなぽーと付近の交差点に展示されている気仙丸

 大船渡商工会議所(米谷春夫会頭)が所有する木造千石船の復元船「気仙丸」は、陸上展示から今年秋で3年を迎える。船上見学の受け入れは広がる一方、塗装のささくれなどが見られ、本年度は継続的な補修を探る方針。木造船による産業、歴史を生かした活性化策も求められる中、一般社団法人大船渡地域戦略(志田繕隆理事長)や商議所は、江戸時代に千石船で流通し「俵物三品」と呼ばれた三陸産のアワビ、ナマコ、フカヒレを織り交ぜたストーリー発信や事業開発も進める。(佐藤 壮)

 

事業開発 本格化へ

 

 気仙丸は、江戸時代に気仙と江戸、九州地方の交易に活躍したとされる千石船の歴史を伝える復元船。長さは18㍍、幅5・75㍍、高さ5㍍。帆柱の高さは17㍍。
 気仙船匠会メンバーらが建造し、平成3年に完成。翌4年には「三陸・海の博覧会」に協賛出品された。その後、赤崎町の蛸ノ浦漁港で係留され、13年前の東日本大震災時は流失、大規模損壊を免れた。
 老朽化が進み、気仙大工の技術や歴史継承を見据え、令和2年8月に湾内から陸上に引き上げられ、液体ガラス塗装を施し、傷みが進んだ部分を新調。翌年10月から、大船渡町のおおふなぽーと付近での展示が本格化した。
 利活用協議会は、同4年に設立。商工会議所や市、市観光物産協会、気仙船匠会、㈲大船渡ドック、㈱キャッセン大船渡で構成している。
 先月開いた本年度総会で、事業計画などを協議。会長を務める米谷会頭は「大船渡にとっては貴重な資産ではあるが、活用には歯がゆさも感じている。至る所で老朽化が進み、放置はできない。少しでも活性化策を実行し、話題性のあるものに」とあいさつした。
 収支予算には、船体修繕費として49万円を計上。腐食、老朽化が見られる部分の対応を進める。事務局からは、船上や帆柱部分の老朽化、塗装のささくれなどが報告されたほか、出席した委員からは「維持するには、単年度にとどまらず、継続的な取り組みを」といった指摘が出た。
 以前から「屋根をかけるべき」といった声もあり、事務局でも見積もりを取るなどしているが、財源確保が大きな課題となり、現状では実現の道筋は見えていない。一方、市内外への地道なPR活動が実を結び、船上見学の団体受け入れは増加傾向にある。
 また、木造船が流通を支えた産業の歴史を伝え、観光振興などにつなげる役割も求められている。歴史的なストーリーを生かし、情報発信や観光メニューを生み出す取り組みも、本年度から本格化する。
 昨年、観光庁から候補DMO(観光地域づくり法人)に認定された大船渡地域戦略は、インバウンド(訪日外国人旅行者)獲得に向けて「俵物三品」ストーリー作成や、高級食材・アワビを使った観光需要の開発を目指す。本年度、同庁事業の採択を受けた。商議所でも、俵物三品を生かした新たな事業を計画している。
 三陸町綾里の「砂子浜大家」では長年、江戸時代の木造千石船で掲げられた長さ約4㍍の「のぼり旗」が保管されてきた。漁業経営を担う網元に加え、長崎貿易の重要な輸出品として幕府が推進した長崎俵物(干鮑、煎ナマコ、フカヒレ)の生産にも関わり、沿岸の繁栄を支えたとされる。
 さらに、綾里から那珂湊(茨城県)や銚子(千葉県)などを経由し、江戸に特産品を運ぶ廻船交易も展開。物流にも携わることで、名家として知られるようになった。
 江戸期に重宝された三陸の高級食材を発信し、さらに木造千石船で流通した歴史も生かす方針。地域戦略は本年度、料理研究やモニターツアー実施などを見据え、来年から体験・旅行メニューとして販売したい考え。インバウンド客の取り込みや、閑散期となる冬季の旅行客確保を見据える。
 利活用協議会では一昨年度に、ふね遺産登録への申請を進めたが、認定には至らなかった。文化的遺産を次世代に伝える観点から、引き続き申請に向けた資料を精査するなどして、登録を目指す。
 また、気仙船匠会の技術に関する記録動画の作成を進める方針。今年も10月に展示会やワークショップを計画するほか、ふるさと納税参加やクラウドファンディング実施に向けた検討も行うことにしている。