〝鬼伝説〟を紙芝居に 『赤鬼と太郎 猪川の長谷寺物語』完成 おはなしころりん 地域住民の原案もとに制作
令和6年7月18日付 7面

大船渡市のNPO法人おはなしころりん(江刺由紀子理事長)はこのほど、紙芝居『赤鬼と太郎 猪川の長谷寺物語』を制作した。猪川町の龍福山・長谷寺に残る鬼や坂上田村麻呂の伝説を、同寺役員の千葉昇さん(69)が「後世に語り継いでもらいたい」とまとめ、同法人が紙芝居用に編集。14日の同寺世話人総会に合わせて初披露され、関係者らが若い世代への歴史継承に願いを込めた。(菅野弘大)
もともと郷土史に興味があったという千葉さん。長谷寺との関わりは平成29年、前総代長の田村長平さん(87)の歴史講演を聞いたことがきっかけだった。
同寺には、大同2(807)年、蝦夷討伐をした征夷大将軍・坂上田村麻呂が気仙郡佐狩郷赤崎小田の首長・金丈丸(赤頭、赤鬼)を滅ぼし、その首を埋めた墓の上に御堂を建て、十一面観世音をまつったとするいわれがある。千葉さんは「長谷寺が気仙で一番古い寺で、田村麻呂伝説が脈々と語り継がれていたり、県有形指定文化財の十一面観音菩薩立像などが収蔵されていることを知った」と興味を持ち、収蔵品の見学や昔話に出てくる赤崎町小田の諏訪神社を訪問するなどして見聞を深めた。
歴史を知れば知るほど、「長谷寺が意外と知られていない」ことにもどかしさを感じたという千葉さん。「地元の子どもたちに興味を持ってもらい、後世まで語り継ぐことはできないか」と模索し、紙芝居での伝承を思いついた。物語は1週間ほどで書き上げたものの、肝心のイラストを描ける人が見つからず、制作のめどが立たないまま数年が経過した。
こうした中、千葉さんと同じ思いを持っていた同寺総代の鈴木貞夫さん(81)が、地域の昔話を紙芝居として次世代に伝えようとの取り組みを続ける同法人に相談を持ちかけ、制作が決定。千葉さんの物語は全27場面で描かれており、これを江刺理事長(62)が紙芝居用に編集。ころりんスタッフの熊谷由紀子さん(64)が絵を担当し、約1年半かけて完成させた。
作品は、猪川村に暮らす太郎と、その山奥に住む赤鬼が出会い、お互いの境遇を思いやりながら友情を深めていくストーリー。赤鬼は田村麻呂に討たれてしまうが、その供養として御堂や十一面観音像が作られたという寺の歴史を伝える。
14日に江刺理事長と熊谷さんが同寺を訪れ、初披露。千葉さんや総代らが見守る中、江刺理事長が熟練の語り口調で物語を読み進め、心優しき赤鬼と太郎の深い友情に涙を流す人もいた。江刺理事長は「地域の歴史を伝える良い機会をいただいた。地元の小学校や地域の集会などで披露していければ」と話した。
千葉さんは「江刺さんの語りと、熊谷さんの絵が素晴らしく、とても感動した。ぜひ地元の子どもたちに読み聞かせをしていただき、地域の伝説や寺の歴史、貴重な文化財を伝え継いでいく紙芝居になってほしい」と期待した。
同法人では本年度も、紙芝居の題材を募集している。地域の民話や口伝、創作物語でも可能。問い合わせは同法人(おおふなぽーと2階、℡21・6001)へ。