視点/大船渡市こども家庭センターの役割と方向性㊤ 商業施設で新たな一歩 中心市街地に〝飛び出した〟狙いは
令和6年7月18日付 1面

大船渡市盛町のサン・リアショッピングセンター2階に開設された、市こども家庭センター。子育て世帯への一体的な相談体制に加え、要望が多かった屋内遊び場の整備など、市が既存の公共空間を〝飛び出して〟整備した。まちのにぎわい創出を生み出す循環づくりとしても期待は大きい一方、これまでの市議会における議論では、厳しい意見も寄せられた。オープン直後の現状と今後の可能性、求められる役割を見つめたい。(佐藤 壮)
交流広場の利用が始まった14日、1階いこいの広場で開かれたオープニングセレモニーには、事前に案内を受けた関係者が着席しただけでなく、多くの地域住民が立ち見で取り囲んだ。オープニングを飾ったのは、盛こども園に通う子どもたちのダンス披露。かわいらしい姿を保護者がスマートフォンで収め、買い物客も足を止めた。
テープカットを終えた2階の交流広場では、盛こども園の園児だけでなく、多くの子どもが駆け回り、すぐに歓声が響き渡った。0~1歳児は、父母らと一緒に玩具を手にし、笑顔を交わした。
広さ265平方㍍の交流広場と通路を隔てる仕切りは、高さ1㍍ほどで、通り過ぎるだけでも内部が見える。立ち止まり、目を細める大人の姿も目立った。
広場の活気があふれ出ることで、さらに新たな人の流れが生まれる。子育てにやさしいまちづくりと、中心市街地の活気創出──。市が目指す姿の一つが、体現された日となった。
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市によると、日曜日の14日と、祝日の翌15日にはそれぞれ約450人が訪れた。平日の16日は、落ち着いた雰囲気が広がったが、それでも日中の時間帯には約100人が利用した。
陸前高田市高田町の小松杏華さん(30)は、長男の楓斗ちゃん(9カ月)を連れて訪れ、ゆったりと午後のひとときを過ごした。杏華さんは「買い物のついでに来たが、思っていた以上に広くて遊ばせやすかった。今は暑いので外は難しく、夕方に散歩するぐらい。ここならば、雨でも、駐車場から濡れずに来れるのがいい。自由におむつ替えができるのもうれしい」と話し、笑顔を見せた。
例年、7月中旬は梅雨時期に当たる。さらに、近年は晴れた日は、気温が上昇し、熱中症の危険が高まる。市は開設に合わせて、交流広場を避暑スペースの「涼み処」にも指定した。
サン・リアは3階が駐車場で、降雨でも傘を差さずに出入りできるほか、猛暑時は駐車中の急激な気温の上昇も回避できる。交流広場は、20種類の遊具や25種類の玩具、落書きスペースといった遊び場としての充実だけでなく、サン・リアが持つ機能を生かし、親にとっても、一緒に連れて行きやすい場として整えた。
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センターそばには、サン・リア側で紙おむつや子ども向け飲料を購入できる自動販売機を設けた。紙おむつを取り扱う機種は、気仙では珍しいという。さらに、センター開設前から2階で運営している音楽教室が、自由に演奏できるストリートピアノを置いた。
14、15の両日、1階では「社会を明るくする運動」の一環で、刑務所作業製品の展示即売会が行われた。28日(日)には、市とトヨタ自動車㈱による「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」が予定されている。ともに、同センターのオープンに合わせ、相乗効果を見据え、サン・リアを会場に選んだ。
子育て支援、中心市街地のにぎわい創出──。いずれも市にとって重い課題であり、少子高齢化に加えライフスタイルや消費行動の変化など、要因は複雑化している。一つの事業だけで、すぐに解決できるものではない。
少しずつでも、改善に向け、さまざまな団体が関わり、連動して好循環を続けることができるか。こども家庭センターは、新たに整備された機能を生かすだけでなく、既存の施設や団体・個人が持つ力を引き出し、前向きな行動を生む仕掛けの一つでもある。