視点/大船渡市こども家庭センターの役割と方向性㊦「立ち寄りやすさ」鍵に 相談や一元化機能、財源確保にも関心
令和6年7月19日付 1面

「誰でも来られる場所から専門的な所につなぐ懸け橋になれれば」。
こう話すのは、大船渡市のNPO法人・こそだてシップの山本正子代表理事。14日の市こども家庭センター交流広場の開放に合わせ、風船を配りながら、親子と笑顔を交わした。
同法人は、サン・リア2階で市子育て支援センター「すくすくルーム」を運営。隣接する形で、市こども家庭センターが整備された。通路向かいに交流広場があり、並ぶように行政機能スペースがある。
行政機能ではすべての子ども、妊産婦、子育て世帯のさまざまな悩みに対応できる体制づくりも主眼としている。相談室は行政機能のスペースに2室、交流広場内には多目的室を兼ねた1室を確保している。
市役所本庁と市保健センターに分散していた事務室を1カ所にまとめることで、一体的な相談支援体制の構築や、子ども・子育てに関する各種手続きの窓口一元化を図る。
昨年11月、市議会全員協議会では、議員から「人目につきにくい方が相談しやすいのでは」「屋内広場は単なる遊び場になってしまわないか。緊急時の一時預かり対応の充実が課題ではないか」などの指摘も出た。
市では、各職員が相談者に出向いての対応も重視してきた。新たな環境を有効に生かし、これまで以上に「相談しやすかった」「プライバシーに配慮した環境だった」と実感できるか。
交流広場を核としたにぎわいの創出・循環に加え、多様な悩みに向き合う相談対応。いずれもおろそかにせず、さまざまな来訪者を受け入れる環境定着が、試金石の一つとなる。
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事務機能が一元化されても、市役所本庁舎や保健センターが担う業務には、子育て世帯に関する分野も残る。各種手続きを進める市民の立場で見た場合、現状ではさらに〝分散した〟という印象をもたらす可能性もある。
例えば、本庁舎の市民環境課で出生届を出した後、児童手当や出産祝金支給事業の手続きは、こども家庭センターとなる。市は「書かない窓口」「行かない窓口」を進めている中、手続きの流れをどのように見直していくのか、今後の対応が注目される。
市は保健センターで実施していた妊婦や乳幼児を育てる母親らが対象の「ほっとカフェ」を来月以降、こども家庭センターで開催する方針。各種保健事業も、同センターでどのように実施していくか。多くの人々が足を運ぶきっかけをつくり、気軽に相談し、過ごせる雰囲気を体感してもらう流れも重要になる。
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こども家庭センターの整備構想が示された昨年秋の段階では、2階には100円ショップなどの店舗があった。テナント入居や販売形態は入れ替わりがあるが、近年は物販分野の撤退が続き、地域住民からは不安の声も聞かれる。
サン・リアを運営する協同組合南三陸ショッピングセンターの役員は「足を運ぶきっかけが生まれるのは、喜ばしいこと。物販系のテナント誘致は努力をしているが、難しい状況。正直、手詰まり感がある中、官公庁の出先や事務室、レンタルスペースといった方向性も模索していかないと、なかなか成り立たない」と語る。
渕上清市長は「子どもの家族や、祖父母の関わりも出てくる。利用者の目線に立った運営も大事なポイントになることは、サン・リア側には話している。人の動きが見え、地域活性化につなげてもらいたい点もお願いしている」と話す。
にぎわいがさらに生まれたと感じるか、今までと変わらないと思うか──。誰もが気軽に立ち寄れる場所に整備しただけに、多くの市民が新たに生まれた空間の効果を判断しやすい。市と協同組合では子育て応援に関する連携も結んでおり、協働による〝変化〟の先も問われる。
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市は整備にあたり、工事などに約1930万円を投じた。入居形態は賃貸借で、年間賃貸料は共益費込みで約680万円。来月をめどに靴箱やテーブル、一部玩具を追加で設ける。
交流広場を開放した初日のにぎわいは、市、サン・リアの関係者ともに「予想以上だった」と語る。子育てと同じように、新たに生まれた空間をさらに成長させていくためには、一定の費用を要する。
整備前に実施したワークショップの意見反映をはじめ、活性化につながる積極的な事業展開を進めれば、保育費無償化や給食費、学童クラブ利用料など、他の支援策への関心も高まる。子育て分野の充実に向けた歯車が動き出す中で、渕上市政の手腕が注目される。