潮風トレイルで好循環を 「長く歩く」の可能性探る 一般社団法人大船渡地域戦略 受け入れ充実へ新事業(別写真あり)
令和6年7月25日付 1面

みちのく潮風トレイルのうち、気仙を含む宮古市~宮城県気仙沼市の約400㌔区間で、地元事業所や地域資源を生かした持続可能なツーリズムの地域定着に向け、一般社団法人大船渡地域戦略(志田繕隆理事長)が観光庁の事業を生かした新たな取り組みをスタートさせた。区間全体を無理なく「長く歩く」ためには、ハイカーの宿泊先や荷物輸送といった需要がある中、地域側の受け入れ体制充実が経済面の活性化にもつながる。同法人では約半年間にわたり、勉強会やモニターツアーなどを計画しながら、好循環を生み出す仕組みづくりを探る。(佐藤 壮)
大船渡市大船渡町の市魚市場で23日、観光庁から事業採択を受けた同法人による取り組み「地域の魅力で紡ぎ、ハイカーと共に育てる、長く歩く道」の一環で、ワークショップが開かれた。岩手、宮城両県、東京都などからオンラインも含めて約60人が参加し、グループに分かれて地図を広げ、意見を交わした。
「宮古~気仙沼で一つの〝道〟をつくりたい。ロングトレイルは1日15㌔歩くのが平均。この距離を、何日かけて歩けるか。15㌔歩いた先に、泊まれる場所はあるか。話し合って、どんな気づきがあるか」。
こう語りかけたのは、取り組みの共同事業者である㈱インアウトバウンド東北=宮城県=の後藤光正取締役。ワークショップ前の説明では、ハイカーの荷物輸送といった事例に触れながら、地域で迎え入れる体制づくりがトレイルの保全や活用、「稼ぐ力」を引き出すことにつながり、インバウンドの拡大にも波及する流れを示した。
1日15㌔のペースで歩いても、区間内の踏破には約30日を要する。半島で予定区間を歩き終えた後の宿泊先への移動といった課題が浮かび上がり、既存事業者の活用や新たな事業創出のヒントを探った。
各グループの発表では「距離よりも、どれだけ長い期間楽しんでもらえるか」「三陸鉄道やBRT、タクシー利用と密接な関わりがある。電波やトイレ、クマ対策も考えなければ」などの意見が寄せられた。
単純に距離で区切るのは難しく、飲食できる市街地や買い物ができる場所、ルート沿いの高低差、アスファルトや自然道など路面環境を考慮する気づきも生まれた。「そもそも、どこがルートなのか」「ルートじゃないけども、立ち寄ってほしい所もある」などの声も出た。
後藤取締役は「(みちのく潮風トレイル全体の)1000㌔がつながっていることを意識することが大切。海側のロングトレイルルートは世界でも珍しく、インバウンドで『第一の目的地』になる可能性がある。地域に住む自分たちが関わる部分を見つけていくことが大事」と話す。
ワークショップに参加した都内在住の女性ハイカーは「みちのく潮風トレイルが良くなってほしいと思う半面、このままだめになっていくのではと、不安に思うこともあった。きょうは、盛り上げようと思う人がたくさんいることが分かり、良くなる希望を感じた」と話し、笑顔を見せた。
この日は勉強会として、相澤久美さん(みちのくトレイルクラブ事務局長)や長谷川晋さん(トレイルブレイズハイキング研究所代表)、久保竜太さん(サステナビリティ・コーディネーター協会業務執行理事)らによるトークセッションもあり、沿線の自然に加え、文化や暮らしぶり、人々との交流など、みちのく潮風トレイルの魅力や可能性を発信。24日には、三陸町越喜来を歩くフィールドワークが行われた。
観光庁は、観光利用を地域資源の保全に還元する仕組みづくりや、総合的なサービス水準向上などを図る取り組みを支援。「サステナブルな観光コンテンツの高度化モデル事業」として本年度、大船渡地域戦略を含む全国11団体からの申請を採択した。
みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市から福島県相馬市まで太平洋沿岸の1000㌔超をつなぎ、5年前に全線開通した。気仙を含む岩手県沿岸南部~宮城県北部は、多様な自然や地域に根ざした生活、産業を堪能できるコースとして知られ、比較的冬場も歩きやすい。一方、観光や宿泊、飲食など地元事業者による受け入れ体制や、広域連携には遅れも指摘されている。
勉強会・研修会は11月まで、毎月開催する計画。来年1月までの間に、ガイド養成講座に加え、荷物配送対応の宿泊施設や交通サポートなどをセットにしたモニターツアーも実施する。