台風5号 気仙直撃も人的被害なし  観測史上2度目の大船渡上陸 3市町で避難所開設 倒木など風雨の影響広がる(別写真あり)

▲ 住田中体育館には、すみた荘の入所者など約90人が身を寄せた=住田町、11日午後7時ごろ

 三陸沖を進んでいた台風5号は12日午前8時30分ごろ、大船渡市付近に上陸した。昭和26年の統計開始以降で、東北の太平洋側から上陸した台風は3例目。同市への上陸は平成28年8月以来で、2度目となった。台風接近に伴って気仙3市町は前日のうちに避難所を開設し、命を守る行動を呼びかけた。12日は風雨の影響で各地で倒木などが相次いだが、午後5時現在で人的被害の報告はない。台風5号は東北を横断するように進み、13日には熱帯性低気圧に変わる見込みだが、通過後も土砂災害などへの警戒が求められる。

 

 気象庁によると、台風5号は12日午後4時現在、秋田県能代市の南東約70㌔にあり、北西へ時速20㌔で進んでいる。中心の気圧は994ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は20㍍、最大瞬間風速は30㍍で、中心の北東側330㌔以内と南西側220㌔以内は風速15㍍以上の強風域となっている。
 気仙では、11日午後3時ごろから本格的な雨となり、同日夜から12日にはやや強く降る時間もあった。気象庁によると、同日午後4時10分現在における降水量は、大船渡で24時間当たり141・0㍉、同日の1時間当たりの最多が12・0㍉。住田は24時間当たりが88・5㍉で、1時間当たりは17・0㍉だった。
 風は12日午前に強まり、大船渡では午前8時21分に最大瞬間風速27・3㍍、同9時46分に最大風速16・0㍍を記録。最大瞬間風速は同日午後4時現在で全国1位、最大風速は2位となる強さだった。住田は午前9時54分に最大瞬間風速13・1㍍を、同10時22分に最大風速6・0㍍を観測した。
 断続的な降雨により、気仙各地の河川でも水位が高くなった。県河川情報システムによると、大船渡市の盛川(権現堂橋)で12日午前11時50分に消防団待機水位の1・10㍍を超過。午後4時30分には、避難判断水位の1・50㍍に達した。浦浜川(越喜来橋)は、同日午前3時40分に消防団待機水位の1・30㍍を超え、同10時40分には1・63㍍にまで上昇した。
 盛岡地方気象台によると、台風は徐々に勢力を弱めながら東北地方を横断し、13日までに日本海に進んで動きが遅くなり、熱帯低気圧に変わる見込み。同日の沿岸南部はくもり未明は雨で、所により明け方まで激しく降る予報。日中の予想気温は最低が26度、最高が31度。

 【大船渡市】

 大船渡市では、11日午後4時に「高齢者等避難」を発令。盛町のリアスホールには、同5時40分までに7人が避難し、車いすや杖をついて訪れる姿も見られ、市職員らが空調が効いた和室に案内した。
 身を寄せた大船渡町の菅野文人さん(75)は「リアスホールに避難したのは東日本大震災で被災した時以来。家の周りが小川に囲まれているので、ひどくならないうちに来た。ここで一晩を過ごす予定で、食料なども持ってきた。影響がなければいいが」と話した。市内全体の避難者は、同日午後10時時点で20世帯69人となった。
 雨脚や風が強まった12日は、消防団員全員を招集。市内各地の河川の水位上昇が続く中、警戒にあたった。
 市には、倒木に関する情報が相次いで寄せられた。このうち、赤崎町の長崎―合足間の市道では、付近ののり面から倒れた長さ15㍍ほどの木が道路をさえぎった。立根町や末崎町では停電も発生した。
 盛町のサン・リアでは、来店客と従業員の安全確保を目的に、通常よりも専門店の開店時間を遅らせて正午からとした。末崎町の碁石海岸キャンプ場は、同日の利用を見合わせた。
 11日に三陸町越喜来のど根性ポプラ広場で予定していた「オキライサマー」は延期。当初は13日としていた夢海公園での水遊びイベント「ウオータースプラッシュ」は14日に行う。

 【陸前高田市】

 陸前高田市は波浪警報発令に伴い、11日午前4時28分に災害警戒本部を設置。同日午後3時に市内全域を対象に警戒レベル3の「高齢者等避難」を発令。市内11カ所に避難所を開設した。
 同日午後7時には土砂災害の危険性がある場所や河川付近の一部地域に対し、警戒レベル4の避難指示を発令。警戒本部を災害対策本部に切り替えて情報収集などに当たった。
 市によると12日午後4時時点で人的被害の報告はない。一部で倒木が確認された。広田町の約400戸で停電があったが、同5時までに復旧した。
 避難所は最大で22カ所開設され、同日午後3時30分にすべて閉鎖した。ピーク時の避難者数は10カ所に合計29世帯53人だった。11日に高田町の市コミュニティホールに避難した同町の60代女性は「台風の通過は経験が少なく、どんなことが起きるか分からないため、大雨になる前に避難した。被害が何もないことを祈る」と話していた。
 12日は高田松原津波復興祈念公園内の震災津波伝承館や道の駅高田松原のほか、各市営施設が臨時休館した。高田町のアバッセたかたは、一部店舗で営業時間短縮の対応を取った。
 同町の夢アリーナたかたや高田松原運動公園、スポーツドームのスポーツ施設も臨時休館。市体協職員がSNSで情報発信したり、施設入り口に看板を設置するなど対応に追われた。

 【住田町】

 住田町は11日午後4時に「高齢者等避難」を発令し、これと同時に世田米の住田中学校、下有住の生涯スポーツセンター、上有住地区公民館の3カ所に避難所を開設。その後、上有住の天嶽と八日町、下有住の火の土の各地域でも自主的に避難所を設け、ピーク時には合わせて約100人が各避難所に身を寄せた。
 同町の社会福祉法人・鳴瀬会が運営する特別養護老人ホーム「すみた荘」(鈴木玲施設長)では、降雨が本格化する前の11日午後1時ごろから、住田中への避難準備を開始。まず寝具などの物品を体育館へと運び込み、その後、3時から施設利用者を車両6台でピストン輸送。4時15分ごろに全員の避難が完了した。
 すみた荘からの避難者数は長期入所者68人、ショートステイ2人の合わせて70人。車いす利用者も多く、職員総出でケアやサポートにあたった。
 すみた荘は世田米の気仙川沿いにあり、令和元年10月の台風19号襲来時、大雨による浸水に備えて入所者が避難した経験もある。
 大雨を想定した避難訓練を重ねてきており、鈴木施設長は「訓練に沿ってスムーズに対応することができた。改めて日頃からの想定が大切だと感じた。利用者の皆さんは不安だと思うが、フォローしながら、全員が無事に帰れるようにしたい」と話していた。
 12日午後5時現在、町内では目立った被害は確認されていない。

 【交通機関など】

 南三陸沿岸国道事務所は、12日午後1時から三陸沿岸道路の吉浜インターチェンジ(IC)─大槌ICの上下線で通行止めを行った。同4時現在、解除のめどは立っていない。
 また、県は一般県道の唐丹日頃市線(大船渡市日頃市町上甲子横川橋─釜石市唐丹町上荒川沢小屋橋)、吉浜上荒川線(大船渡市三陸町吉浜千歳─釜石市唐丹町向)、釜石住田線(住田町上有住大洞─釜石市甲子町大松)で11日から当面、全面通行止めとしている。
 JR大船渡線BRTと三陸鉄道は12日、ともに終日運休となった。13日は、大船渡線BRTが午前中の便を運休して午後から運転を再開。三陸鉄道は盛―釜石、宮古―久慈間で列車運行、宮古―釜石間はバスによる代行輸送を予定。いずれも運休や遅れが発生する可能性があるとしている。