「車避難」住民自ら検証 広田町・田端自治会が訓練
令和6年9月11日付 7面
津波発生時の「自動車避難」の有用性や課題を住民自ら確かめようと、陸前高田市広田町で自治会主催の避難訓練が行われた。東日本大震災で甚大な津波被害を受けた同市は現在、車避難の方針などを検討するため、外部有識者協力のもと津波避難シミュレーションを実施している。発災から13年6カ月。高齢化に伴い、自力の徒歩避難が困難な災害弱者が増加している。訓練を行った住民らは、行政任せにするのではなく、安全で迅速に避難するための自助・共助のあり方を模索している。(高橋 信)
訓練は8月下旬、広田町泊地区内にある田端自治会(西條正夫会長)が実施。同自治会内の高齢者組織「おらどの会(泊お楽しみクラブ)」メンバーら16人が参加し、自宅から「指定緊急避難場所(災害の危険から命を守るために緊急的に避難する場所)」である県立野外活動センターまで、車8台に分乗して避難した。集合後、地図を見ながらおのおのの移動ルートを確かめた。
「移動時間は車で5分ほどだったが、避難の準備からだと30分は必要だと感じた」「到着後すぐに車いすが見当たらず困った」「飲み物と常備薬を持参したが、ずっと持っていると結構重い。やってみて分かった」など、浮き彫りとなった課題も共有した。
その後、「指定避難所(災害で自宅へ戻れなくなった人が一時的に滞在する施設)」にもなっている同センター体育館内を見学。自治会役員らは備蓄倉庫の場所も確認した。
参加者の中で最高齢の相模トシ子さん(95)は「1人で逃げることは難しく、誰かの手が必要になる。面倒をかけてしまうが、こうして車で乗せてもらい避難できると大変ありがたい」と話した。
田端地域の行政区長・志田信一さん(76)によると、同地域では震災当時あった約100世帯のうち、3分の1ほどが津波で被災。現在は83世帯が暮らし、高齢化が地域の課題だ。
こうした中、同自治会は自助・共助の体制づくりの参考としようと、昨年度、徒歩による避難ルートや県公表の津波浸水想定エリアを記載した「逃げ地図」を作成。高齢者から「野外活動センターまで車で避難してみたい」との声が上がり、次なるステップとして今回の訓練が企画された。
西條会長(77)は「実際に訓練することで分かることがある。災害時に高齢者をどう守るか、また高齢者自身ができることは何なのか、行政だけでなく、自分たちも考え、備えることが大事。この意識を若い世代にも広げていきたい」と話した。
市地域防災計画では、震災時に車の渋滞が一部発生した教訓を踏まえ、避難手段を「原則徒歩」と明記している。しかし、三陸沿岸被災地では高齢化が加速し、徒歩避難が難しい人が増加傾向にあり、車避難を条件付きなどで容認する自治体も出始めた。
陸前高田市は昨年7月、有識者組織のアドバイザリー会議(委員長・牛山素行静岡大教授、委員5人)を設置し、車避難のあり方や避難困難地域の有無などを盛り込む市津波避難計画策定に向けた検討を開始。現在、津波避難シミュレーションを行っており、10月上旬を予定するアドバイザリー会議でシミュレーションの途中結果を報告する。
中村吉雄防災課長は「徒歩避難を原則としながら、地域の実情に応じて車を活用した避難について地域側で検討していただくことは、大変ありがたいこと。適切な行動を実践するには備えが重要であり、市としても連携しながら命を守るための取り組みを応援したい」と話した。