市街地に命つなぐロープを 若手消防士の声契機 初のレスキュー競技会開催へ 

▲ キャッセンを舞台とした初の競技会開催に意欲を示す吉田さん

 東日本大震災から、11日で13年6カ月。気仙の中心市街地は、復旧・復興事業を経て事業者や住民の利活用が定着した一方、停滞感や新たな災害への不安を指摘する声も出ている。こうした中、大船渡市では若手消防士が声を上げたことが契機となり、キャッセン大船渡エリア(大船渡町)での初のロープレスキュー競技会開催に向けて準備が進む。被災したビル屋上での「あの日」のエピソードも生かし、命をつなぐロープを張り、洗練された救助技術を示す中で復興の先への活路を見いだす。(佐藤 壮)

 

東日本大震災 きょう13年半

「あの日の屋上」もヒントに

 

 おおふなぽーと展望広場に取り残された避難者を、大船渡プラザホテルの屋上からロープを結んで救出し、客室に誘導して安全を確保する──。こうした想定を盛り込んだ「ロープレスキュー競技会in大船渡」が、10月19日(土)と20日(日)の2日間に開催される。
 最初の一歩は、6月9日にキャッセン内で開催された「大船渡まちもり大学」だった。大船渡地区消防組合勤務の吉田元気さん(29)が出席し、終了後の懇親会で大会の開催構想を明かした。
 平成28年の採用以降、業務の非番などを生かしてロープレスキューの技術を高め、国内外での大会参加も重ねる。「活動を通じて、一般の方々に安心感を届けたい」と、復興事業で整備された市街地で開催する意義を伝えた。
 同席者から賛同を得ただけでなく、13年前の発災当日、まち全体が津波にのまれた中で、1本のひもが命をつないだことを教えてもらった。当時、茶屋前岸壁近くにあった5階建てのマイヤ本店は3階まで浸水し、従業員や買い物客は、屋上に避難した。
 真向かいの大船渡プラザホテルでも、屋上に避難者がいた。マイヤの屋上から、ひもを結びつけたボールを投げ入れ、綱や買い物かごを使って浸水を免れた食料が届けられたという。吉田さんはこのエピソードを聞き、競技会の具体的なイメージが膨らんだ。
 大会運営の実動部隊となる実行委員会(村上浩朗代表)は、消防組合職員40人以上らで構成。震災前から、職員有志がロープレスキューに取り組み、碁石海岸を舞台にした大会開催の実績があった。今回は消防組合組織としても、訓練アドバイザーとしての参画が決まった。
 大船渡消防署勤務の村上代表(40)は「大船渡は滑落などの危険がある岩場が多い中、ロープレスキューは少人数でも対応できる。震災前から、県内でも先駆けて取り組んできた自負がある。元気の話を聞いて『もう一度、盛り上げていこう』という思いになった」と語る。
 準備を通じて、消防分野以外の人々が抱く、まちづくりへの思いにも触れた。キャッセンエリアは供用から5年以上が経過し、コロナ禍もあって近年は停滞ムードもただよう。新たな取り組みへの期待感に乗る形となり、村上代表は「いい〝化学反応〟が起きている」と手ごたえを示す。
 開催を通じて、現状における避難行動後の安全確保策にも、一石を投じる考え。おおふなぽーと屋上は現在、指定している高台の避難先に間に合わない場合の緊急的な逃げ場となっている。
 徒歩避難が原則である中、エリア内では、足腰に不安を抱える住民や買い物客が高台までたどりつかないケースも考えられる。取り残された際の安全・迅速な救助活動に向け、さまざまな想定下で日頃の活動で培った技術を示し合い、未来を見据えた「命を守る行動」のあり方を発信する。
 競技会は1チーム8人で、県内外から10チーム程度が参加する予定。初日はキャッセンエリアでの「都市災害に対する救助」を、2日目は碁石海岸の穴通磯周辺で「自然地形に対する救助」をそれぞれ競い合う。一般市民らの見学を歓迎する。
 次年度以降も開催し、3年後の国際競技会開催が目標。吉田さんは「震災が発生した日は、通っていた綾里中の卒業式前日だった。体育館に避難して、小中学校から抱いていた消防士への夢がより強くなった。震災の時、海外からも多くの救助隊が駆けつけた。国際競技会となることで、震災の時の支援・援助への感謝を示し、その際に受け継いだ『絆』も発信することができれば」と話し、力を込める。