診療までの時間 約3割短縮 県立大船渡病院のドクターカー 8月末現在で出動50件に 運行エリア拡大も見据える

▲ 8月末までに50件の出動があった県立大船渡病院のドクターカー(4月)

 大船渡市の県立大船渡病院(中野達也院長)が大船渡地区消防組合管内の同市と住田町を対象に運用している救命救急用「ドクターカー」は、今年4月16日の試験運用開始から、間もなく5カ月を迎える。同院によると、8月31日までの運行実績は50件で、通報から医師が患者を診療するまでの平均時間は、病院に搬送するよりも約3割短縮されたことが分かった。今月からは運行日を週3日から週4日に増やしており、将来的には運行エリアの拡大も見据えている。(三浦佳恵)

 ドクターカーは、緊急度、重症度の高い患者を病院外で診療するため、必要な医療機器や医薬品などを積載し、医師が搭乗する緊急自動車。同院では患者搬送を行わず、医師、看護師、治療に必要な医療機器と医薬品を現場に派遣する「ラピッド・ドクターカー方針」を採用し、県内初の試みとしてスタートした。
 同院の災害用緊急車両・DMATカーを利用し、毎週火・木・金曜日の午前9時~午後5時に対応。対象地域内でケガや急病が発生した通報を受け、呼吸困難や大量出血の継続といった基準に合致した症例がある場合、消防指令センターが要請して出動する。
 ドクターカーには同院救命救急センターの医師と看護師らが乗車し、発生現場やその付近にある「ドッキングポイント」で救急車と合流。医師と看護師は救急車に乗り込み、診療をしながら病院に向かう。
 同院によると、開始から8月末までのドクターカー要請件数は53件で、このうち到着前に患者が亡くなるなどのキャンセルを除いた出動は50件。全体的に救急車による搬送件数が少なかったこともあり、1カ月当たり10件程度で推移した。
 これまでの実績から、通報を受けて救急車が患者を病院に搬送するまでの時間を算出すると、平均で32・8分。ドクターカーが出動し、患者に接触するまでの平均時間は21・4分で、病院搬送よりも11・4分(34・8%)早く診療に移ることができた。中には、約50%の時間短縮を図れたケースもあった。
 主な症例は、意識消失や心肺停止、農作業中の事故、交通事故など。気管挿管、人工呼吸器の装着、止血帯を用いた処置などを行い、専門医による手術やドクターヘリでの搬送につないだ例もあった。年代別では中高年から高齢者が多く、12歳以下はなかった。
 開始当初は、無線交信による連絡がスムーズにできないといった課題もあったが、ドクターカーや救急車にGPSを搭載し、互いに位置情報を把握できるようにするなどして改善。ドクターカーに乗車できるスタッフの増強に向け、研修も重ねてきた。今月からは、出動日を火~金曜日の週4日に増やし、ドッキングポイントを55カ所から58カ所に拡大してさらなる充実を図る。
 横沢友樹救命救急センター長(43)は、「要請から2~3分で出動し、消防側とのやりとりもよりスムーズにできるようになってきた。関係機関との連携を強化し、将来的には、出動日を月~金曜日の週5日にし、対象を陸前高田市などにも広げていきたい」と話している。