漆職人の夢 再び能登で 輪島の研修所に通う今野さん 地震後花巻で技術磨く 旧吉田家住宅(陸前高田市)の戸塗りも担当

▲ 研修所の再開が決まり石川県輪島市へと戻る今野さん。旧吉田家住宅の帯戸の漆塗りなどを手がけ充実した表情を見せる=花巻市

 今年1月に発生した能登半島地震で、研修先の石川県輪島市・県立輪島漆芸技術研修所が被災し、花巻市に拠点を移して漆塗りの技術研さんに励んできた今野風花さん(24)=大船渡市赤崎町出身=が今月、輪島市に戻る。同地震から8カ月が経過し、10月から授業再開のめどが立った。岩手にいる期間は、陸前高田市気仙町今泉地区で災害復旧中の県指定有形文化財「旧吉田家住宅主屋」で使われる板戸の漆塗りを手がけるなど、研修生ながら〝戦力〟として活動。「貴重な経験をさせていただいた。関わった全ての人に感謝し、漆職人を目指して技術を増やしたい」と気持ちを奮い立たせる。(菅野弘大)

 

 大船渡高校を卒業後、東北生活文化大学(宮城県仙台市)の選択授業で漆塗りと出合った今野さん。漆職人を志し、漆芸の技術伝承者養成などを行う輪島漆芸技術研修所専修科(2年制)に進んだ。
 しかし、能登半島地震が発生し、地元に帰省中だった今野さんは被害を免れたが、研修所も被災し授業がストップ。先が見通せない状況の中、研修所入りを後押しした㈱松沢漆工房(盛岡市)社長の松沢卓生さん(52)から誘いを受け、授業再開までの期間、花巻市を拠点として、岩手の職人の指導を受けながら漆塗りの腕を磨くことを決めた。
 今年4月から同市の県営住宅に住み、数々の仕事依頼を受けた。主に漆の「塗り」に取り組み、大船渡市の㈱バンザイ・ファクトリーが製作しているオーダーメイドの手形カップ「我杯(わがはい)」や、スマートフォンケースの加工を手がけた。
 7月からは、東日本大震災津波で全壊し、復旧作業が進められている旧吉田家住宅主屋の帯戸10枚の漆塗りを担当。筆を使ってむらなく塗り、乾燥させて表面の凹凸をならし、付着したほこりなどを取り除くという工程を5回繰り返して完成となる作業で、今野さんはこのうちの2回を完了させ、残りは岩泉町の家具職人に引き継いだ。「全て自分で作業を完了させられれば胸を張れるけど」と謙遜するが、「こうした形で地元、気仙の復興事業に関われたことを光栄に思う」と充実感をにじませた。
 研修所の再開を待ちながら技術を磨き続けた岩手での約5カ月間を「意外と早く時間が過ぎた」と回顧。「今年いっぱいは(輪島に)戻れないかなと思っていたので、授業再開はうれしく、ありがたい」と率直な気持ちを口にした。
 また、岩手での活動を支援した松沢さんや指導した職人らへの思いも語り、「声をかけてもらわなかったら、授業再開まで漆を触ることすらできなかった。ここ(花巻)での経験から、これからも漆と関わり続けたいという気持ちが強くなった」と感謝する。今野さんを見守ってきた松沢さんも「新しい地で不安もあったと思うが、職人のもとで教わりながら、自信を持って取り組めるようになったのではないか。向こうでさらに腕を磨いて、ぜひ地元で活躍する職人になってほしい」と期待する。
 今野さんは、花巻から大船渡にいったん帰省し、輪島に戻る。石川県では輪島、金沢両市で、ほかの研修生たちと漆作品の展覧会を開く予定で、日本の伝統工芸を通じて能登の復興に貢献する意欲を見せる。
 「住民は前に進もうとしている。全て元通りというわけにはいかないだろうけど、復興が進んだ輪島の姿を見てみたい」と今野さん。「自分の漆作品というより、人から求められるものを作る職人になりたい。そのためにも、しっかり技術を磨いて、成長した姿で地元に帰ってくる」と誓う。