新生産拠点の整備進む いわて銀河農園のトマト生産温室設備 越喜来の被災跡地に来年3月完成へ

▲ トマト生産に向けた温室設備設置工事が進む=三陸町越喜来

 東日本大震災の被災跡地を大船渡市が産業用地として整備した三陸町越喜来沖田地内で、㈱いわて銀河農園(橋本幸之輔代表取締役、末崎町)による大規模なトマト生産に向けた温室設備設置工事が進められている。来年3月完成、来夏からの生産開始・出荷を見込む。ここ数年は草地が広がっていた防潮堤沿いは、柱となる鉄骨が並び、新たな産業振興や雇用の拠点として姿を変えつつある。(佐藤 壮)


 同社によると、施設面積は2・7㌶で、このうち栽培面積は2・5㌶と、県内最大規模を誇る。鉄骨ハウスを整備し、日射が少ない時期でも光を確保するLEDによる補光設備など、最新技術も取り入れる。
 3月に安全祈願祭を行い、現在は躯体となる鉄骨が並び、槌音が響き渡る。整備では、産地生産基盤パワーアップ事業として市からも補助金を受けている。同事業は国の施策の一環で、県を通じて財源を確保した。高性能な機械や設備導入などを支援しながら収益向上を後押しする。
 完成後の施設では、区画ごとに苗を入れる時期をずらすなどして、トマトの通年出荷を見据える。主な取引先は、スーパーマーケットなどの量販店。大船渡は冬に降雪量が少ないといった利点があるほか、近年は全国的に猛暑をはじめ気候変動を受ける中、安定的な流通につながる北東北の新たな拠点としても注目を集める。
 いわて銀河農園は、平成29年に市と企業立地協定を締結。震災で被災した末崎町小河原地区(大田地内)の被災跡地に約1・5㌶の農場を含む生産技術高度化施設を整備し、令和元年から出荷が本格化した。現在、従業員50人規模の体制でトマト生産にあたる。
 越喜来への進出により、新規雇用はパートや外国人研修生も含め80人~100人規模となる見通し。末崎と同様に、子育てや浜仕事などとの兼務をはじめ、柔軟な働き方にも対応する方針。出荷や作業量の平準化など、今後は複数拠点のメリットも生かしながら生産を展開する。来月には、越喜来をはじめ事業地周辺を対象に事業説明会を開催することにしている。
 2拠点体制が確立されると、市は東北でも有数のトマト産地となる。被災した低地部の利活用を生かした復興展開としてだけでなく、新たな産業創出や持続可能なまちづくりに向けた雇用の確保と、行政や経済分野などからの期待は大きい。
 工事が進む三陸鉄道三陸駅東側の沿岸部は、東日本大震災では甚大な被害を受けた。かつて越喜来小学校や住宅地、農地だった一帯で、市が産業用地として整備した4・8㌶を貸し付けた。
 市は被災地の利活用と産業振興に向け、防災集団移転促進事業による移転元地と、地権者の協力を得た周辺民有地を集約。越喜来ではすでに、イチゴの周年栽培施設が整備されている。
 橋本代表取締役は「農業生産事業を通じて『地域に価値ある産業としての農業』を実践し、地域づくりの一翼を担うことができれば。持続可能なまちづくりには、持続性のある事業が必要と考えており、地域の方に関わっていただきながら農業生産を持続させることで今後の地域づくりに加わりたい」と話している。