観光振興「俵物三品」に活路 高級乾燥食材の地元活用見据え初のセミナー 大船渡地域戦略 三陸産アワビ、ナマコ、フカヒレに注目(別写真あり)
令和6年9月20日付 1面

江戸時代に千石船で流通し「俵物三品」と呼ばれた三陸産のアワビ、ナマコ、フカヒレの各乾燥食材を観光振興などにつなげようと、大船渡市の一般社団法人大船渡地域戦略(志田繕隆理事長)によるセミナー・調理研修が19日、盛町の市働く婦人の家で開かれた。中国料理で重宝される背景や調理法を学び、新たな展開へのヒントを探った。中国の水産物禁輸措置が続く中での地元消費拡大や外国人富裕層へのアピールに加え、陸上展示されている「気仙丸」との連携でも注目を集める。(佐藤 壮)
セミナー・調理研修は、観光庁の地域観光新発見事業の採択を受けて展開している「三陸の冬季集客を目的とした三陸の俵物三品ストーリー作成と高級食材『鮑(アワビ)』の聖地化事業」の一環。市内の飲食店やアワビ加工・出荷を取り扱う事業所の各関係者ら約20人が参加した。
講師を務めたのは、東京都にある㈱ホテルオークラ東京中国調理課の平林健彦課長ら。中国料理で干鮑や煎ナマコ、フカヒレが高級品として重宝されてきた背景や、三陸産が誇る品質の高さなどを解説した。
古くから伝わる「太陽が最後に味付けをしてくれている」「生命の特別なエネルギーを得る」といった干物への考え方を紹介。干鮑などは貨幣に匹敵する価値があるとして「六大乾貨」の一つとされているほか、中国では清王朝時代の18世紀に宮廷料理の「満漢全席」が飛躍的に発展した歴史にも言及した。
三陸産の干鮑は「キッピンアワビ」として国内外で高い知名度を誇る中、平林課長は「やわらかく、もっちりとした食感で、甘く、おいしい干しアワビを『糖心鮑』と呼ぶ。吉浜の干しアワビは、古くから『糖心吉品鮑』として知られる」と説明。見た目の良さも挙げた。
また、ナマコに関しては〝角〟の多さが好まれる傾向も指摘。会場に用意された干鮑、煎ナマコは大船渡市内の事業者が加工したもので、いずれも品質の高さに太鼓判を押した。
調理に用いる際は長時間水に浸すなど、入念な下準備やおいしく仕上げるこつもアドバイス。調理研修では、蒸しスープやオイスターソース煮込みなどを実演した。実際にホテル内で提供される料理もあり、参加者は熱心に平林課長の手さばきを見つめた。
参加したアワビ事業を展開する元正榮北日本水産㈱=三陸町綾里=の古川翔太営業部長は「歴史的背景を含めたストーリーと、現場の視点でなぜ品質の良さが認められているかを知ることができた」と話していた。
干鮑などの乾燥食材は江戸時代、気仙からも木造千石船で各地に流通し、長崎貿易で重要な役割を果たした。現在、大船渡駅周辺地区内に江戸時代の千石船を再現した「気仙丸」が陸上展示されている中、インバウンド(訪日外国人旅行者)の取り込みや、閑散期となる冬季の旅行客確保を見据える。
来月は、「気仙丸」に関連したセミナーを開催。11月下旬にはモニターツアーを実施し、来年度以降の商品造成や利活用に生かす。
志田理事長は「大船渡はこれまで、富裕層に喜んでもらう観光コンテンツが少なかった。ALPS処理水排出に伴う中国の水産物禁輸措置で苦しんでいる事業者も出ており、地元消費が広がることで今後の活性化につながれば」と力を込める。