「海業」広がり少しずつ 気仙でも定着・推進に向けた動き 人口減少や環境変化見据え
令和6年9月24日付 1面
海や漁村の地域資源を活用する「海業(うみぎょう)」の取り組みが全国的に注目される中、気仙でも定着・推進に向けた動きが少しずつ広がりを見せる。浜の現状に理解を深める体験や実習の受け入れは、交流人口拡大の一つとして注目される。また、海洋環境が変化し、漁業生産全般で厳しい状況が続き、体制整備は各岸壁を拠点とした新たな収入確保といった面でも可能性を秘める。多くの人々が訪れやすく、既存の生産・事業体制と調和した環境づくりが今後のポイントとなりそうだ。(佐藤 壮)
大船渡市三陸町越喜来の泊漁港に20日、東京海洋大学(本部)による漁村フィールドワーク実習の一環で、学生4人が訪れた。受け入れたのは、同漁港を拠点に養殖などを展開する「八の助商店」海業事業部の岡田真由美さん(50)。岸壁でホタテ養殖の現状を伝えたあと、漁船で海上の養殖施設に出向き、耳吊りされたホタテや、アサリ試験養殖の現場も見学した。
「八の助商店」は、サラリーマンから転身して越喜来で漁業に励む夫の薫省さん(54)が、一昨年に独立。真由美さんは5年度まで4年間にわたり、市地域おこし協力隊として水産資源の魅力発信を進め、退任後に海業事業部を立ち上げ、すでに数件の実習・体験活動を受け入れた。
地域おこし協力隊時代、ウニ漁や大船渡で養殖されているサーモンにちなんだ体験事業を企画。その中で「大船渡でもできる可能性と、体験の受け入れが整っていない課題を感じた」という。
助成金を生かし、体験用の長靴や胴長、マイクなどを用意。学生説明では、言葉だけでなく写真やグラフなども用いて分かりやすく伝えた。
全国的に知名度が高まりつつある「海業」を生かした取り組みの背景には、海洋環境の変化に伴う厳しい養殖環境が一つにある。昨年、岡田さん夫妻が手がける養殖のホタテは海水温上昇の影響を受け、大半がへい死。今年分の出荷にも影響が及んでいる。
真由美さんは本年度、カキ養殖を見据えて県の水産アカデミーを受講。海業を意識した実習・体験の受け入れは、今後のさまざまな変化に対応するリスク分散も意識する。
実習や体験は、すでに気仙沿岸の各漁業者も受け入れており、漁業者や漁港がある地域のファン獲得につながっている。岡田さんは今後、ホームページを開設するなどして、誰もが海業の実情を知り、気軽に申し込める体制づくりの構築も見据える。
真由美さんは「海業をキーワードにした実習や体験は、問い合わせや申し込みなど〝間口〟がそんなに広くないと感じている。国も積極的に推進しようとしている中、地域のファンになってもらいながら関係人口、交流人口の増加にもつながれば。現場に来てもらうことで漁業の現状を知ってもらい、適正な価格での取引や、漁業資源を大切にしようという流れも生まれるのではないか」と期待を込める。
海業は、漁業にとどまらない方策で、漁港を活性化させようという取り組み。人口減少が進む中で漁村のにぎわい創出が課題となっている中、体験や観光客を受け入れることで、地域の所得向上や雇用機会の確保などが期待され、水産庁も振興策を打ち出している。
市も推進に向け、前向きな姿勢を示す。今年2月の市議会一般質問の論戦でも話題となり、当局は「今後、市内漁業協同組合等に対して事業の周知を図るとともに、全国の先進事例や取組を研究しながら、漁港を活用した海業の可能性について検討したい」などと答えた。
期待される活動では、体験・ツアーの受け入れだけでなく、飲食や新たな養殖品目への挑戦、漁村ごとの伝統文化活動など、幅広い内容が含まれる。今回、東京水産大学の実習活動では、学生たちが甫嶺復興交流推進センターで宿泊。既存の施設・産業への波及効果も注目される。