脱炭素の取り組み強化へ 国の先行地域選定受け
令和6年9月29日付 1面
陸前高田市は、環境省の脱炭素先行地域に選定され、脱炭素化に向けた独自の取り組みを強化する。農作物の栽培と太陽光発電を両立させる「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」を東日本大震災の被災跡地に整備するほか、不足している電気保安人材の確保にも乗り出す。小水力発電、メタン発酵バイオガス発電設備も導入する。佐々木拓市長は「先行地域としての取り組みを展開し、市の発展につなげたい」と決意する。(高橋 信)
政府は令和32年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにし、脱炭素の実現を目指している。環境省は全国の自治体などから「先行地域」を選定し、家庭や業務で電気を使ったときに出る二酸化炭素(CO2)を12年度までに実質ゼロにする取り組みを支援している。
先行地域はおおむね5年間にわたり、50億円を上限に国の財政支援を受けられる。太陽光発電や蓄電池を導入したり、省エネ機器に更新したりする際、原則3分の2が国からの交付金で賄える。
先行地域の募集・選定は令和4年から行われ、27日に公表された第5弾で陸前高田市を含む全国9件が追加。全体で38道府県108市町村の計82件(本県は5件)となり、同省は7年度までに全国で少なくとも100件を選定する。
陸前高田市の提案タイトルは「脱炭素と資源循環で実現する農林水産業振興~復興の先の創造的産業振興モデル~」。対象エリアは中心市街地や横田地区などとし、地域電力会社の陸前高田しみんエネルギー㈱や㈱長谷川建設、㈱東北銀行など20以上の事業者・団体が、市との共同提案者となっている。
果樹栽培と太陽光発電を組み合わせる「ソーラーシェアリング」は、中心市街地エリアの被災跡地を活用し、大規模に導入する計画。果樹の木をポットで育てる「根域制限栽培」を採用することで、営農に不向きな被災跡地の利活用につなげる。
陸前高田しみんエネルギーによると、整備面積は7㌶以上を見込む。太陽光パネルで発電した電力は、同社が買い取り、再生可能エネルギーの地産地消を推し進める。
また、電気保安人材を確保するため、同社や管理技術者協会などによる資格取得支援を行う。資格取得者が実務経験を積む受け皿として、同社内に保安部門を創設し、基盤構築を図る。
横田地区は森林、水資源活用モデルエリアに位置づけ、小水力発電を取り入れる。旧横田小校舎を拠点に、太陽光発電などの再エネと蓄電池を組み合わせることで、一部地域の電力需要を賄うシステム「地域マイクログリッド」構築に取り組む。
下水汚泥や生ごみなどを主原料としたメタン発酵バイオガス発電設備の導入も計画。発電後に残った消化液を液肥として農家に供給し、肥料費の低減につなげる。廃棄していた食品残さなどを有効活用することから、行政の処理コスト減も期待される。
さらに、市有林における「森林クレジット」、広田湾などにおける藻場再生・活用による「Jブルークレジット」創出を実施。新設ホテルなどで薪ボイラー、木質バイオマスストーブを配備し、地元間伐材の有効利用を推進する。
佐々木市長は「農業、林業、水産業における脱炭素の具体的な取り組みを行い、市民の生活にもメリットを与えるような効果を生み出していきたい。市民や関係機関の協力をいただきながら、数十億円というスケールの交付金を最大限に活用し、先行地域としての事業を展開していく」と見据える。