多地元産〟にこだわり続けて 酔仙酒造の「多賀多」 原料米の収穫完了 12月から醸造開始 戦前からの銘柄を受け継ぐ
令和6年10月4日付 7面

陸前高田市の酔仙酒造㈱(金野連社長)は、来春から販売する特別純米酒「多賀多」の仕込みを12月から開始する。原料となる酒米の生産は気仙町今泉地区の圃場で行われており、今季はすでに収穫作業が完了。多賀多は戦前にあった酒蔵・磐井酒造店の代表銘柄を受け継ぎ、平成17年の市政施行50周年に合わせて製造を始めた酒で、「米、水、造り手すべて地元産にこだわった地米酒」という昔から変わらないコンセプトに、関係者は特別な思いを寄せる。(阿部仁志)

現在店で販売している「多賀多」を持つ磐井さん
多賀多の原料米は、今泉の圃場を管理する今泉復興農事組合が作っている。今年も、「ひとめぼれ」の苗を5月から育ててきた。
収穫作業は9月30日に実施。同組合の菅野剛さん(74)は「昨年は高温障害が見られる稲もあったが、今年は大丈夫。実の大きさも良く、いい酒が造れると思う」と太鼓判を押した。
酔仙酒造へは約9000㌔を納める予定。新米を使った仕込みは12月中旬から始まり、来年3月頃からの商品販売を目指す。
同社の杜氏の金野泰明取締役(48)は「多賀多はおかげさまで毎年好評をいただいている。今回も陸前高田の良質な米を使い、おいしい酒を造る」と意気込む。
多賀多という商品名は、第2次世界大戦前に現高田町にあった「磐井酒造店」が販売していた銘柄からとったもの。磐井酒造店の流れをくむのが、現在同町で酒と和雑貨の店「いわ井」を営む㈱いわ井。延享4(1747)年からの歴史があり、代表の磐井正篤さん(67)は12代目にあたる。
磐井さんによると、磐井酒造店の多賀多は当時「たがた」と発音され、「明治時代から造っていたとみられる」と語る。戦時中の昭和19年、磐井酒造店はほか七つの酒蔵との統合により「気仙酒造」(現酔仙酒造)となり、「多賀多が造られたのはこのあたりまでのようだ」と磐井さん。
再びこの銘柄にスポットが当たったのは、平成に入ってからだった。「地元の米だけを使った日本酒を造ろう」というプロジェクトが有志によって立ち上がり、完成した酒の出来が良かったことから商品化が決定。メンバーに磐井さんが入っていたこともあり、地産地消のコンセプトにマッチした「多賀多」の銘柄を復活させ、酔仙酒造で販売をスタートさせた。
東日本大震災津波による圃場や酒蔵の被害を乗り越え、今も造られている〝2代目〟の多賀多。「地元の米を使ったオール高田の商品」というコンセプトは、磐井酒造店の時代から変わっていない。
いわ井の店舗では現在、昨年の米で醸造された多賀多を販売。磐井さんは「陸前高田にあるおいしいものを地元の人が味わえるように、と願って造られた酒。あらためて、地域のみなさんにおすすめしていきたい」と思いを込める。