傷病者の意思尊重した救急活動を 気仙の消防本部 手順書「DNARプロトコル」11月から本格運用開始へ  心肺蘇生〝〝望まない〟なら中止も

▲ 11月から気仙地域における救急活動でDNARプロトコルが本格運用される

 大船渡地区消防組合消防本部(管野賢消防長)と陸前高田市消防本部(菅野泰浩消防長)は、救急業務における心肺蘇生法等の処置について、傷病者本人が望まず、医師からの指示があった場合は中止とする活動の手順書「DNARプロトコル」の本格運用を11月1日(金)に始める。消防、救急医療等の各機関が連携し、傷病者の意思を尊重する救急活動を推進。新たな手順を示し、関係者や地域住民へ理解を呼びかけている。 (阿部仁志)

 

 DNARは「Do not attempt resuscitation」の略で、「再生を試みない」という意味。
 今回策定されたプロトコル(ルール、指針)に基づき、両消防本部の救急隊員は、救急現場で心肺蘇生法等を開始する際に、傷病者の家族から「本人が心肺蘇生法等を望んでいないこと」を伝えられ、かつ、医療機関から発行される「指示書」を確認して医師からも中止を指示された場合に、心肺蘇生法等を行わない。
 現場が傷病者宅の場合、医師が傷病者宅に訪問できるか電話などで協議し、訪問できない場合には、さらに協議を重ねたうえ病院へ搬送する。搬送する際は、心肺蘇生法等の処置を行うこともある。
 DNARプロトコルの策定は、人生の最終段階で受ける医療やケアなどについて患者本人と家族、医療従事者らが事前に繰り返し話し合う取り組み「人生会議」(ACP、アドバンス・ケア・プランニング)の全国的な普及を受けてのもの。「消防法に基づき救急業務を実施する救急隊」が、「ACPに基づき傷病者の意思を尊重してほしいと考える患者や家族」の意思に沿った活動をできるようにすることが狙い。
 気仙では、両消防本部と気仙医師会、県立大船渡病院救命救急センターなどで構成する気仙地域メディカルコントロール協議会(会長・横沢友樹同センター長)が、〝気仙版〟のDNARプロトコルを新たに策定。今年7月2日付で施行された。
 心肺蘇生法等の中止の対象となるパターンは▽医師、傷病者、家族らの間で、心肺蘇生法等を望まない意思について合意形成がなされている▽現疾患の進行により心肺停止に至ったと推察される──など。一方、外因性(外傷、窒息、交通事故、自傷・加害など)による心肺停止や、心肺蘇生法等の実施を強く求める家族らがいる場合は、対象から除外される。
 両消防本部では現在、医療福祉関係者らへの説明の場を設けるなど認識の共有を図り、地域への周知も進めている。
 陸前高田市消防本部の伊藤章尋指導救命士(48)は「救命を最優先に考えなければならない半面、ACPという考え方もある。私たち救急隊員は、市民のニーズに応えるために、それらのバランスをとりながら活動していかなければならない」と理解を呼びかける。