沿岸首長から厳しい声 ALPS処理水放出以降のアワビ価格下落に 岩手三陸連携会議で漁業者の不満代弁

▲ アワビ取引価格に関する発言が相次いだ岩手三陸連携会議

 東京電力福島第一原発のALPS処理水海洋放出に伴う中国の禁輸措置などを受け、アワビの取引価格低迷が続く中、10月30日に大船渡市内で開かれた第9回岩手三陸連携会議では、出席した構成首長から賠償の迅速な対応や充実を求める声が相次いだ。11月の気仙地区における10㌔当たり平均価格は5万8660円で、前年から26%下落。各首長は国の関係者らを前に「不満が出ている」「東京電力に指導を」などと、苦境が続く漁業者の声を代弁しながら早期改善を訴えた。(佐藤 壮)


 岩手三陸連携会議は、持続可能な三陸沿岸地域の形成に向け、人口減少対策や定住促進など、対策を要する課題について協働で解決していこうと平成28年度に設置。毎年、構成市町村の持ち回りで会議を開いている。
 13市町村の首長(代理含む)が出席し、議事では各種事業の取り組み状況などを確認。情報交換では、内閣府の担当者がALPS処理水の処分に関する対策や、今後の取り組みを説明し、質疑では各首長からアワビ価格低迷に伴う賠償対応に関連した発言が相次いだ。
 陸前高田市の佐々木拓市長は「昨年分の賠償の合意に至ったことには感謝している」としたうえで、今年11月の事前入札価格が前年を下回った状況に言及。「海藻が減り、やせアワビが懸念されるということもあるが、大前提として、中国マーケットが閉じている。『値段が下がったのは品質低下で、放出のせいではない』と主張をしないよう、国から東京電力を指導してほしい。中国マーケットが開けば、値段は上がる」と述べた。
 別の首長は、地元漁協から聞いた内容に触れ「昨年の賠償が払われていないということで驚いた。迅速に支払うよう強く指導を。昨年の分が清算になっていないで、今年の漁が始まる。漁師はただでさえ、収入が減っている。正月前に支払うよう指導を」と訴えた。
 さらに「『丁寧に、速やかに賠償事務を進める』との話だったが、実際はそうなっていないと、強い不満が出ている」「因果関係を求められ、事務が進まなければ『そもそも福島に原発がなければこういう話にならなかったのでは』ということになる」といった指摘が寄せられた。
 浜や流通実情に言及しながら「11、12月のアワビ漁は、正月に向けて大事な時期。岩手のアワビの大半は、干鮑業者が買う。中国に輸出できないのを分かっているので、高い値段では買わない」との声も出た。
 これに対し、内閣府側は「昨年分は交渉が長引いてしまったが、妥結したと聞いている。できるだけ早くお支払いできるよう適切に指導する」「今年の値下がりが、中国の禁輸とどういう関係があるのか、できるだけ客観的に評価する必要性がある」などと述べ、理解を求めた。
 中国政府は昨年8月以降、水産物の禁輸措置を続ける。一方、今年9月には「中国側はIAEAの枠組みの下での長期的かつ国際的なモニタリングに参加し、参加国による独立したモニタリング活動を実施後、科学的根拠に基づき、基準に合致した日本水産物の輸入を着実に回復させることで認識を共有した」と公表された。
 この点についても、首長からは「回復に向けたスケジュール感はどうなっているか」との質問が出た。内閣府側はサンプリング活動が明確になっていない状況を明かしながら「いつ、どれくらい回復するかはまだ分からない」と答えた。
 議長として進行役を務めた大船渡市の渕上清市長は「現場の声を届けた。稼ぐ時期にしっかり稼ぐということは、なりわいを形成するうえで大事になっていく。生活に直結した話になるだけに、賠償のスピードについてはしっかりと取り組んでほしい」と語った。
 岩手三陸連携会議は今年7月にも、県と県漁連とともに国や県選出国会議員に要望活動を行い、ALPS処理水の処分に伴う▽海洋放出に関する賠償▽処分に関する安全と安心の確保▽風評に負けない強い水産業の実現に向けた取り組みへの支援──などを求めている。
 11月におけるアワビ入札結果の平均は、平成28年が6万円台、29年が7万円台となり、30年は不漁傾向を反映して10万円台まで上昇。令和元年は11万円とさらに上がった。2年は新型コロナウイルスの影響で、7万円台まで低下。3年は上昇に転じ、4年は令和元年に近い水準の10万円台まで戻ったが、昨年は7万円台に落ちた。