個体数調整に新たな方策 農作物被害多いシカとイノシシ 県が10月に大船渡で展開 気仙で初の広域捕獲事業

▲ 10月に大船渡市全域を対象に行われたシカなどの広域捕獲事業=大船渡町(大船渡猟友会提供)

 シカ(ニホンジカ)やイノシシによる農作物被害が深刻化していることを受け、県は10月、気仙では初めてとなる野生鳥獣広域捕獲事業を大船渡市内で展開した。農林水産省の支援事業を活用し、県の指定管理鳥獣捕獲等事業や市の有害捕獲事業を行わない10月にも捕獲を可能にしたもの。市内全域で実施した結果、先月27日現在でシカを中心に当初の見込みを上回る137頭が捕獲されており、県や業務委託を受けた大船渡猟友会(佐藤武会長、会員63人)では「成果があった」として、個体数の調整に手応えを感じている。(三浦佳恵)

 

 シカをはじめとした野生鳥獣による農作物被害は、年々深刻さを増している。県によると、大船渡市内における野生鳥獣による農作物被害額は、令和3年が643万円(うちシカ被害343万円)、4年が646万円(同319万円)、5年は840万円(同425万円)。気仙全体は3年が1091万円(同613万円)、4年が1421万円(同632万円)、5年が2195万円(同873万円)。市単独、気仙のいずれも被害額は増加傾向にあり、その半数をシカが占めている。
 同市内ではこれまで、4~9月に市が国庫事業による有害捕獲事業を、11~2月には県が環境省の指定管理鳥獣捕獲等事業を行い、シカの個体数管理に努めてきた。しかし、3月と繁殖時期に当たる10月には捕獲事業がなく、年間を通じた実施が求められていた。
 そこで、本年度は市の有害捕獲事業を1カ月前倒しして3~9月を期間とし、10月は新たに県が農水省の支援を受けて広域捕獲事業を行うことで、年間を通じて対応できる体制を整えた。広域捕獲事業の実施は、県内では遠野、久慈地域に続く3カ所目で、沿岸広域振興局管内では初めて。
 実施に当たっては、県と県猟友会が業務委託契約を締結。大船渡では地元の大船渡猟友会が業務を担い、会員37人が参加した。
 同会では市内全域を対象に、参加会員らが5班に分かれてシカやイノシシの捕獲を展開。その結果、先月27日時点で三陸町内を中心に、シカ136頭、イノシシ1頭を捕獲した。28~31日分の捕獲数は今月6日(水)に報告される予定だが、すでに県が想定した月100頭を上回る成果を上げている。
 同会庶務として捕獲数の取りまとめなどを行う古内文人さん(64)は、「広域捕獲で成果が出たのはよかった。一番の目的はシカの頭数を減らすこと。まわりに被害を及ぼさないことが何よりも大事」と話す。
 県としても、今回の成果に「広域捕獲をやってよかった」と手応えを口にする。
 県大船渡農林振興センターの長谷川和弘センター長は「農作物などを鳥獣被害から守るための方策だが、何よりも絶対数を減らしていかなければならない。新たな体制で広域捕獲を実施し、1年間切れ目なく個体数を調整できる方法を導入できた。気仙3市町に広げられれば、より効果的な捕獲につなげられる。地域全体で行うことで山へと囲い込み、共存できるようになればと思う」と話し、将来的には本格的な広域捕獲事業の実施を見据えている。