美術品展示・保管へ検討開始 既存施設活用を想定 8年10月の一般公開目指す(別写真あり)
令和6年11月14日付 1面
陸前高田市は、市に関係する美術品を展示・保管する施設開設に向けた検討に着手した。既存の市有施設を活用する方針で、本年度内に空き校舎などの中から選定する計画。令和7年度は展示品を決めるほか、作品を保護・保存するための施設改修を行い、8年10月の一般公開を目指す。東日本大震災で流され、文化財レスキューを経てよみがえった美術品も多数あり、限られた市の財源も見極めながら、貴重な作品の受け皿となる施設確保にかじを切る。(高橋 信)
市は地元の芸術文化団体関係者や外部有識者ら7人でつくる検討委員会を設置し、12日に高田町の奇跡の一本松ホールで第1回会合を開催。委員長に元市教委教育長で、気仙地域のアートアカデミー「彩光会」会長を務める熊谷睦男さん(90)=高田町=を選出した。
事務局の市教委は今後の検討スケジュール案を示し、原案通り承認。それによると、本年度は来年2月ごろに第2回検討委を開き、展示保全施設を決める。7年度は美術品の展示基準、展示品などを固め、同時に施設設計・改修工事に入る。8年度は管理体制を決定し、10月の一般公開を予定している。
現段階で候補施設は▽旧矢作中校舎▽旧気仙小校舎▽旧高田東中校舎(陸前高田グローバルキャンパス)▽杉の家はこね──の4カ所。
この日の協議では、委員らが「子ども向けのワークショップができるような場も設けた方がいいのではないか」「完璧な施設を整えようとすると予算が相当かかるが、既存施設を活用すればその環境自体が一つの特徴となる。お金をかけるのではなく、展示の仕方などを工夫すればいい」などと意見交換した。その後、候補施設のうち3カ所を視察し、イメージを膨らませた。
市は平成初期に、市内出身者や市ゆかりの作者の美術品を収集などする「カルチャービレッジ構想」を掲げ、美術館整備の計画も打ち出したものの頓挫。震災後、市民文化会館や市立博物館など被災した社会教育施設が復旧したが、芸術作品を常設展示する施設はないまま現在に至っている。
こうした中、郷土にゆかりのある画家らの貴重な作品を適切に管理しようと、展示保全施設整備への機運が高まり、市は本年度、検討委設置を決めた。
市教委によると、展示対象と見込む美術品は現在把握している限りで、少なくとも200点程度あり、震災の津波をかぶり、全国の博物館関係者らの協力を受けて救出された絵画や版画などを含む。修復した美術品は、盛岡市の県立美術館に一時保管されている。
同館では現在、それら被災作品のコレクション展(前期=12月1日まで、後期=12月3日~1月19日)が開催されている。同展終了後、陸前高田市に返還され、当面は矢作町生出地区にある市立博物館収蔵庫に保管する見通し。
また、震災後、市に対して外部からさまざまな芸術分野の作品が寄贈されているといい、検討委は今後、それら寄贈品の扱いも検討していく。
かつてカルチャービレッジ構想に携わっていた熊谷委員長は「施設整備の検討が始まり、個人的に大変うれしく思う。市外の美術館など他の事例を参考にしながら、どのような施設ができるか考えていきたい」と話した。
委員は次の通り。任期は令和8年10月まで。
▽委員長=熊谷睦男
▽委員=佐々木保伸(市芸術文化協会)米谷易寿子(同)伊藤沙舟(同)佐藤一枝(高田高美術部顧問)長谷川誠(盛岡大短期学部教授)森忠行(森の美術館館長)