視点/4年ぶり開催の市政懇談会 ㊤ 「仕組み変える」道筋は 地区別に異なる人口減少の推移

 大船渡市が9月26日~今月19日に市内10地区で開催した「新たなまちづくりに向けた市政懇談会」。令和8年度を初年度とする総合計画後期基本計画策定に向けて意見を集めるだけでなく、人口減少や少子高齢化が今後も続く中で、まちの将来像や課題解決策をどう見いだしていくかや、来月で発足から2年を迎える渕上市政が市民や地域と向き合う姿勢や対話のあり方が注目された。厳しい状況が続く市政運営の中でも、期待や前向きな希望を抱かせるものだったか。約2カ月の足跡を検証する。(佐藤 壮)

 

 市政懇談会は令和2年度以来4年ぶりで、渕上市政下では初。9月26日以降、越喜来、赤崎、末崎、蛸ノ浦、盛、立根、綾里、大船渡、猪川、日頃市の各地区で実施した。吉浜では、来年1月中の開催に向けて調整を進めている。
 3~12年度を期間とする総合計画と、7年度までの前期基本計画に基づく各種施策を示すとともに、8年度からの後期計画策定に向け、市民と市長らの対話から出たニーズやまちづくりに関する意見・提言の反映に向けた場として位置づけた。1会場で20~40人程度の参加となった。
 市内における先月末時点での人口は3万2163人。市当局はどの会場でも、前半は「人口減少が進む」とし、平成6年から約30年間で人口が3割以上少なくなり、6年後の令和12年には3万人未満になる予測を示した。
 今後もさらに人口減少は加速し、26年後の同32年には1万9200人余となる。国土技術政策総合研究所の「将来人口・世帯予測ツール」を用いた地区別の予測も解説した。
 各地区の予測は別掲の通り。地区によって減少率に大きな開きがある。
 三陸町や日頃市町など、人口が少ない地区だけでなく、現在最も多い大船渡町でも60%以上減る見込み。こうした数字は、地区内の活力はもちろん、同町での利用割合が大きい下水道運営などさまざまな分野に厳しい将来をつきつける。
 人口減少の流れは、当面、止まらない。市全体が均一的に〝縮小〟するだけでなく、地区や市全体の形が大きく変わる。
 その中で、持続可能なまちづくりをどう進めるか。人口推移に関する説明の最後に、渕上清市長は「負担の仕方を変えること、支え合う仕組みを変えることに尽きると考える。戦略的に縮小していく。10年、20年、30年先に備えることが大事」と語りかけた。
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 「いちばん支えが必要なのは、地域ではないか。コミュニティーにもう力がない。役員を探すのも大変。市民一人一人のケアができているかもしれないが、コミュニティーも重要」。
 今月6日夜、大船渡地区公民館で、市長の説明後にこう発言したのは、南笹崎地域で行政連絡員を務める中野吏智子さん(64)。体調を崩した子どものケアなど母親が働きやすい環境づくりや、認知症予防をはじめ高齢者の要介護・要支援判定前から切れ目のない支援の充実も訴えた。
 行政文書を配るなど、地域を回り、住民と顔を合わせる中で、高齢化や担い手不足に伴う課題に直面する。公民館施設の環境充実につながる助成金の活用や情報収集で「地域の力の差」を感じることもある。
 中野さんは「市民も地区組織も、市長も、みんな大船渡をもっと良くしたいと考え、頑張っている。でも、何かつながっていない感じがする。それぞれがバラバラに動き、誰もが思っている課題に手が届いていないのでは」と、思い切って手を挙げた。
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 住民からの発言は、公共交通、道路網、空き校舎活用、体育施設整備、三陸ジオパーク、みちのく潮風トレイルなど多岐にわたった。持続可能な運営を見据え、新たな仕組みづくりを求める住民も見られた。
 「どこも厳しい状況が続いている各地区にある放課後児童クラブの課題解決に向けた糸口は。一体的に運営する法人化は、市にとっても悪い話ではないのでは」(越喜来)
 「保育園は小規模でも地域になくてはならないもの。公立の施設は赤字でも運営できるが、民間の場合は倒産してしまう。小規模でも経営できるよう『市内1法人』にならないか。経営効率も上がるのではないか」(日頃市)
 身近な施設を維持するために、市全体の問題としてとらえ、解決を図る。負担の仕方や、支え合う仕組みを変える必要性に対して、市民側も一定の理解があることがうかがえた。
 では、渕上市政下において、何から、どう手をつけるか。住民発言後の部課長による回答や、懇談会の最後にあった市長の総括からは、具体的な検討姿勢や道筋は見えてこなかった。
 今後、後期計画策定への作業が本格化するほか、令和7年度の予算編成や議会審議も控える。1期目4年の任期折り返しを過ぎて以降、変化の必要性を訴えるだけでなく、行動や見直しの姿をどう示すか。渕上市政を見定めるポイントの一つが浮かび上がった市政懇談会となった。