俵物三品─気仙丸─地場産業 海運の歴史を今に生かす 大船渡地域戦略 定着へモニターツアー 冬季観光の開拓見据え(別写真あり)

▲ 気仙丸の船内で説明を受ける参加者

 観光庁から観光地域づくり法人(地域DMO)に登録認定された大船渡市の一般社団法人大船渡地域戦略(志田繕隆理事長)は25、26の両日、冬季集客に向けたモニターツアーを市内で行った。三陸産のアワビ、ナマコ、フカヒレの各乾燥食材と、陸上展示されている千石船「気仙丸」を結ぶ海運の歴史に加え、海産品を生かす地場産業を組み合わせ、大船渡ならではの行程を提案。旅行商品としての販売・定着を見据える。(佐藤 壮)

 

煎海鼠、干鮑、鱶鰭の「俵物三品」も用意

 モニターツアーは、観光庁による地域観光新発見事業の採択を受けて展開している「三陸の冬季集客を目的とした三陸の俵物三品ストーリー作成と高級食材『鮑(アワビ)』の聖地化事業」の一環。地場産品を生かした食事や歴史、文化、地場産業を生かす旅行商品の開発を進めている。
 ツアーには市内外から12人が参加。初日は「気仙丸『俵物三品の歴史を学ぶ』ガイドツアー」が行われ、陸上展示されている大船渡駅前周辺地区では、市観光ガイドの佐藤公精さん(71)や、気仙丸を所有する大船渡商工会議所の今野顕彦さん(42)が出迎えた。
 佐藤さんは「北前船」「弁財船」などと呼ばれる気仙丸のような帆船は江戸時代の海運を支えた一方、明治後半以降は動力に優れた船舶の台頭で姿を消したという歴史を解説。平成4年に釜石で開催された「三陸・海の博覧会」に合わせて気仙船匠会が技能を発揮して気仙丸を建造し、同博覧会で最高賞に当たるジャパンエキスポ大賞に選ばれた功績に触れた。
 長崎貿易で中国向けに輸出された海産物は俵に詰められ、特に煎海鼠や干鮑、鱶鰭は高級食材として清王朝下での需要が高かったことも紹介。船の前には各乾燥食材も用意され、参加者は手に取りながら歴史ロマンに思いをはせた。
 船上や船内では、今野さんが説明。俵物を運ぶための荷室や船大工のこだわりが光る細工を紹介しながら、「大型の弁財船が実際にいつでも見られるようになっているのは、気仙丸だけ。これは模型ではなく、本物の船。技術が素晴らしく、この地域も建造する木材や海産物に恵まれ、今も残っているところがすごい」と力を込めた。
 アワビを扱う三陸町越喜来の田村畜養場三陸営業所を見学後、大船渡町の大船渡温泉で、俵物三品を生かした料理メニューを堪能。独特の柔らかさや口の中に広がる香ばしさに加え、地元産のワインや日本酒との〝マリアージュ〟も好評を博した。さらに、越喜来の崎浜地区に伝わる小正月行事で、わらの装束にアワビの殻などを身につけた「たらじがね」も登場した。
 山形県でインバウンド事業などを展開する「The Hidden Japan(ザ ヒドゥン ジャパン)」の佐藤友亮さん(39)は「その土地の食べ物を楽しむガストロノミーツアーは、海外観光客の人気が高い。一挙に味わうことができ、ストーリーの良さもあり、可能性を感じた。体験も組み合わせることでもっと魅力が高まると思う」と話していた。
 2日目は「俵物三品の運搬ルートを歩く文化体験」として、三陸町綾里の不動滝からのトレッキングも。アワビ加工や養殖を営む地元事業所も巡りながら、爽やかな汗を流した。
 気仙丸は老朽化が進んだことから令和2年8月に湾内から陸上に引き上げられ、液体ガラス塗装を施し、傷みが進んだ部分を新調。3年10月から、大船渡町のおおふなぽーと付近での展示が本格化した。〝市街地の顔〟として木造船による産業、歴史を生かした活性化策が求められている。