「救出された絵画たち」 盛岡の県立美術館で企画展 震災後修復の作品30点余、陸前高田ゆかりの作家らに光を
令和6年11月30日付 7面

盛岡市の県立美術館(藁谷収館長)で、企画展「救出された絵画たち─陸前高田へ、まもなく帰郷(前編)─」が開かれている。東日本大震災の津波で海水や泥につかったあと修復された、陸前高田市出身、ゆかりの作家による作品30点余りを展示。文化財レスキューの軌跡を伝えるとともに、「陸前高田の美術史や、作家らに光があたるきっかけに」とし、観覧を呼びかけている。(阿部仁志)
県立美術館では、平成23年の大震災津波で被災した陸前高田市立博物館の美術作品約150点を保管。25年から令和4年度にかけて専門家らによる修復作業が進められ、来年度までにすべての作品が返還される見通しとなったことから、特集展示が企画された。
展示対象は絵画や版画、イラスト。同美術館コレクション展第3期(前期=10月26日~12月1日、後期=同3日~来年1月19日)で計37点を展示し、同展第4期(1月25日~4月20日)では20点を公開する予定。
第3期前期では、同市に芸術文化活動振興策「カルチャービレッジ構想」を提案して美術家らに影響を与えた故・猪熊弦一郎氏=香川県出身=や、猪熊氏と同市との縁を結んだ故・行木正義氏=千葉県出身、気仙地域のアートアカデミー「彩光会」初代会長の故・柳下彰平氏をはじめとする同市出身者らの作品が並ぶ。
作品の近くには、修復前の作品の様子が分かる写真とともに、修復の過程などを記した解説パネルも掲示。材質の異なる各作品の脱塩やカビ処理、傷や劣化部分の修復に尽力した関係者の工夫と努力を伝える。
企画を担当した同美術館の根本亮子上席専門学芸員は、作品の被災状況や修復過程を強調するのではなく、あえて、作品の美術品としての魅力を発信する展示内容にしたという。「表面はきれいになっていても、裏面は被災の跡が目に見えて分かる作品もある。そうした部分が見えるようにするという案も思い浮かんだが、作家の気持ちを考え、最終的には『陸前高田にはこういう作家がいた』ということが伝わる展示を目指した」と語る。
震災後、平成24年度と令和元年度にも被災作品の企画展を開き、レスキュー活動や修復作業の経過を報告する役割を担ってきた同美術館。関係者らは、近づく〝帰郷〟のときに向けて「さまざまな思いの詰まった一つ一つの作品が、故郷で再び多くの人々に愛されるように」と願っている。
観覧料は一般460円、学生350円、高校生以下無料。午前9時30分~午後6時。月曜日と年末年始(12月29日~1月3日)は休館。問い合わせは同美術館(℡019・658・1711)へ。