大学なき陸前高田に交流と学びの拠点 岩手大、立教大が共同運営 グローバルキャンパス閉所へ①
令和6年12月8日付 1面
岩手大学(盛岡市、小川智学長)と立教大学(東京都豊島区、西原廉太総長)が共同運営している陸前高田市米崎町の「陸前高田グローバルキャンパス」は、本年度で閉所する。旧高田東中校舎を活用し、平成29年4月に開設された大学生と市民との交流活動拠点。これまでの歩みを振り返るとともに、運営を支えてきた関係者の思い、本年度動き出した両大学の新たな展開などを紹介する。そのうえで同キャンパス誕生による成果は「レガシー」としてどのように引き継がれるべきなのか、この先のあり方を考えたい。(高橋 信)
のし掛かったコロナ禍
「今回の変化を前向きな発展と捉えていこう(小川学長)」「グローバルキャンパスは閉じることとなるが、学生たちによるプログラムをより強化・発展させたい(西原総長)」──。
7月23日。陸前高田市役所で開かれた市、岩手大、立教大の3者でつくる連携推進協議会で、同キャンパスの閉所が話題に上った際、両大のトップはそう発言した。
「学びを通して『つなぐ』『つたえる』『つくる』」の三つをコンセプトに開設された同キャンパス。まち(市民)と大学、または大学と大学、そして日本と海外を「つなぎ」、東日本大震災とその後の類を見ない復興・まちづくり、陸前高田の伝統や歴史、文化を「つたえ」、市民や大学関係者らによる交流から英知を集め、まちの未来、日本の将来を「つくる」との意味を込めた。
3階建て施設の2、3階フロアをメインに使い、館内には一般開放しているラウンジのほか、数時間から終日単位で貸し出す講堂・会議室、長期利用を想定している研究室がある。防災・減災を学ぶ資料展示室も設けられている。
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閉所の主な理由は、新型コロナウイルス禍と復旧・復興の進展だ。
同キャンパスの利用者数は、年間4000~5000人台で推移。キャンパスがないまちで大学生が活動するための受け皿となり、市民・市民団体の利用も多い年で1000人を超えるなど、さまざまな人の交流基地となった。
そんな中でのコロナ禍だった。行動の制限が求められ、状況が一変。流行下の令和2年度は全体で673人と、前年度比で84・4%減となった。3年度以降、利用者数は年を追うごとに回復し、5年度は前年度比918人(63・5%)増の2362人だった。
2年度には高田町の中心市街地に席数640の大ホールを備える奇跡の一本松ホールが完成。津波で失われた公共施設の再建が進んだことで利用ニーズは分散し、米崎町にある同キャンパスの存在感は低下した。「非接触、非対面」で実施できるオンライン会議が急速に普及し、会合などで同キャンパスに集まる機会も減った。
岩手、立教の両大と市の3者は、施設の維持管理費などとして、最大で年間300万円ずつを投入していた。利用状況や経済的な負担など総合的に判断し、閉じることを決めた。
しかし、同キャンパスの管理・運営に一区切りをつけるだけで、3者の連携は施設開設という「ハード」分野から、陸前高田をフィールドとした教育プログラム実践などの「ソフト」分野へと昇華した。そのステージ移行を具現化した新たな取り組みとして8月、両大の学生がともに学ぶ「合同授業」が市内で初めて行われた。
佐々木拓市長は両大に対し、「グローバルキャンパスを拠点に、学生による活動を通じて行政では手の回らない課題の解消に当たってもらった。大変ありがたいことで、市として今後もできる限り支援をしていきたい」と感謝する。