高水温下の救世主となるか 越喜来漁協でアサリ試験養殖 生産体制確立と市場流通見据え

▲ 越喜来漁協が取り組むアサリの養殖。苦境にあえぐ漁業者らの希望の光となるか

 大船渡市三陸町の越喜来漁業協同組合(舩砥秀市組合長)では令和4年度から、アサリの試験養殖に取り組んでいる。近年の海水温の上昇で養殖水産物が被害を受ける中、高温下でも生存できる新たな養殖種として注目を集め、養殖物の生産量回復や漁業者の所得向上につながる事業として期待がかかる。20日は同町越喜来の泊漁港で作業が行われ、関係者らが成育状況を確かめながら、生産体制の確立と市場流通を見据えて力を合わせた。(菅野弘大)

 

 近年で特に顕著となっている海水温の高温化。この影響で、気仙でも養殖水産物の死滅などが相次ぎ、漁業者らが苦境に立たされている。
 こうした状況を受け、釜石市の県水産技術センターでは、比較的高い水温の中でも生存できるアサリに注目。かつては国内生産のほとんどが天然資源の漁獲によるものだったが、資源とともに生産量も減少。現在は外国からの輸入に頼らざるを得ない状況となっており、国内生産の回復などを目指して養殖を検討してきた。
 越喜来漁協では4年度から、3軒の漁家が事業を行っており、三陸やまだ、新おおつち両漁協とともに増養殖に着手。開始にあたり、市の新規養殖試験補助金を活用した。現在は野田村、重茂両漁協も加わり、県内5漁協で取り組んでいる。
 養殖は、同センターから提供された3~6㍉ほどの種苗を、ろ材と一緒にタマネギ袋に入れ、さらに丸かごに収めて海中に垂下する方法で実施。20日には、泊漁港で3カ月に1回のカゴ替えと分散作業が行われ、担当する漁業者や同センター、漁協、市の職員ら約10人がアサリの成長具合を確認しながら手を動かした。
 海から引き揚げたアサリをふるいにかけ、サイズ別に仕分けた。小さいものは真水に浸す「淡水浴」を施した。これにより、アサリを食べるヒラムシやコツブムシなどを駆除できるという。
 同センター職員が成長の記録を取り、再び袋とカゴに入れて漁船で垂下場所に戻した。出荷できるサイズのアサリもあり、今後は貝毒の検査や需要などを見ながら市場流通を目指す。
 試験養殖に取り組む岡田薫省さん(55)・真由美さん(50)夫妻は、越喜来湾内で養殖するホタテやカキが高水温の影響を受け、そこでアサリに目を付けた。真由美さんは「(アサリは)ホタテやカキに比べて、水温が高くても生存率は良く、手間はかかるが陸上での作業も多いので、自分たちのペースで進めていけそう。ただ、数量をどうやって作っていくかは今後、考えていかないといけない」と見据える。
 始めた当初は、自分たちで種苗生産にも挑戦したが、手間やコストがかかるうえ、死んでしまったものも多かったという。薫省さんは「まさに試行錯誤している最中。国産のアサリは全国で激減していて、日本の食文化に根付いた食材が失われてしまう前に、守り育てていきたい思いもある。高水温など海に起きている変化と合わせて、こうした新しい取り組みも知ってもらえたら」と話した。
 アサリと同様に、高水温に耐えられる水産物として、ムール貝(シュウリ貝)の養殖が釜石市の唐丹湾で行われている。同センター増養殖部の小林俊将部長は「多様な魚種を開発し、養殖することで環境変化などにも対応できる部分はある。そういった技術開発を目指して動いている」と語る。