子ども第一の活動たたえ 第50回東海社会文化賞 読書支援グループおはなしペパン(陸前高田市)に決定 

▲ 本と物語の楽しさを伝える活動に取り組む「おはなしペパン」の会員ら

 福祉や文化、教育、産業などの分野で地道な活動を続ける個人、団体を顕彰する第50回東海社会文化賞(東海社会文化事業基金主催)の受賞者が決まった。今回は、「おはなし会」などの活動を通じて子どもに本と物語の楽しさを伝える、陸前高田市の子ども読書支援グループ「おはなしペパン」(馬場幸子代表、会員11人)に決定。受賞者数は通算73個人54団体となった。2月に顕彰式を行う予定。(齊藤 拓)

 

本の楽しさ伝えて30年

 

 おはなしペパンは、陸前高田市教委が主催した読み聞かせ講座の修了生たちによって、平成5年12月に設立。勉強会で互いに技術を高め合い、旧・市立図書館を拠点に「おはなし会」を開くなど、精力的に活動を重ねてきた。
 馬場代表(65)は、設立の発端となった当時の読み聞かせ講座を「絵本が子どもに与える影響や、絵本を読む必要性を感じた」と振り返る。グループを立ち上げたのも、「子どもと絵本をつなげる役目は、絵本を読んであげる大人にある」という気づきが根底にあったからだ。
 子どもと本をつなげる活動は、おはなし会だけにとどまらなかった。朝日新聞が展開する、本の著者が学校などを訪問して出前授業を行う「オーサー・ビジット」を参考に、会員らと子どもたち自身が作家に働きかけて陸前高田に招いたこともあった。
 馬場代表は子どもを相手とする活動について「一番大事なのは実践すること。大人の理解を得る活動も必要だし、自分自身も絵本のことをしっかり理解しなければ」と話す。中学生や大人に向けたおはなし会、ワークショップなどを会員らが企画し、動き続けた。
 しかし、23年に東日本大震災が発生。会員らの自宅や本は津波に流され、市立図書館も全壊。会員1人が犠牲になった。人と場所を失い、グループも震災直後は活動休止に陥ったが、再起のきっかけとなったのは、陸前高田を訪れる支援者の存在だった。
 全国から本の寄贈を受けた。さらに、子どもに読み聞かせをするボランティアの姿に、馬場代表は震災前の活動を思い出し、「いつまでも与えられる状態でいたくない。またやらなくちゃ」という思いがわいたという。住まいが定まらない中でも、同年9月には勉強会を開き、会員らはできることから行動を始めた。
 そして、24年にはおはなし会を再開。結成20周年となった翌年には記念の「おはなし会スペシャル」も開いた。
 人との関わりも途切れなかった。震災前から活動に協力してきた下澤いづみさん(愛知県在住)は、29年と令和元年にも同市を訪問。絵本を使わず言葉だけで物語を伝える手法・ストーリーテリングで、おはなし会に加わってきた。
 おはなしペパンもストーリーテリングを重要視し、おはなし会にも取り入れてきた。馬場代表は「ストーリーテリングは軽い話から、『なるほどな』と思わされる知恵の詰まった話までできる。想像しながら話を聴いて楽しむ経験は、ほかにない」と、大きな魅力を感じている。
 昨年は、結成30周年記念行事として「大人のためのおはなし会スペシャル」を開催。馬場代表も含め会員の多くは、家業や家族の介護を手伝っており、活動時間には限りがある。それだけに、「できるだけ質の良い、充実した時間を届けたい」という思いは強い。
 「〝子どもと本ファースト〟という考えを大事にしたい。自分たちは黒子で、その本の良さを素直に伝えられたら」と話す馬場代表。会員一同、本と物語の楽しさを届けるため、これからも勉強と実践に意欲を燃やす。