神戸からの学び伝えたい 阪神淡路大震災30年 堀内さん刊行の著書『喪失、悲嘆、希望』 藤原さん(陸前高田)が推薦、自主頒布も
令和7年1月11日付 2面

17日(金)で阪神淡路大震災の発生から30年となるのに先立ち、東日本大震災直後から陸前高田市などを支援してきた俳優の堀内正美さん(74)=NPO法人「1・17希望の灯り」前代表=が著書『喪失、悲嘆、希望 阪神淡路大震災 その先に』(税抜1800円、月待舎)を刊行した。約14年前の大津波のあと堀内さんと知り合い、親交を温めてきた同市広田町の藤原直美さん(81)は「この本には、命を守ることや人助けに関し、どこでも・誰にでも共通する大切な内容が詰まっている。ぜひ広く読まれてほしい」と語り、自主的に頒布活動を行うほど力を入れて周知を図っている。(鈴木英里)

著者の堀内正美さん
東京都出身の堀内さんは、昭和59年に神戸市へ移住し、平成7年の大震災を経験。東京へ戻るのではなく「神戸市民の一人としてまちの復興に携わりたい」と、市民ボランティア・ネットワーク「がんばろう!!神戸」を立ち上げた。
阪神淡路大震災の発生年が「ボランティア元年」と呼ばれた通り、当時はまだボランティア活動が当たり前ではなかった時代。「困りごとを抱える人」と、「それに応じた支援ができる人」を結びつける仕組みの構築がいかに重要かが初めて認識されるとともに、その後に起きた災害の被災地支援にも、同ネットワークの知見は大いに役立てられた。
堀内さんは同書において、発災直後からの経験や、当時どこで・何が問題になったのか、課題解決のためにどういう取り組みがなされたのかなど、周辺で起きた出来事を綿密に、臨場感あふれる筆致で振り返る。また、「もう誰にも同じ悲しみを味わってほしくない」という震災遺族らの願いから、神戸市の東遊園地に「1・17希望の灯り」が設置された経緯も当事者の一人として述懐する。
自身のルーツにも触れるなど自伝的要素も含まれるが、決して私的な記録にとどまらないのは、それが堀内さんの〝神戸に骨を埋める〟決心へと結びつき、その思いが支援者としてのあり方や、壁に直面した時の闘い方へとつながっていくからだ。
どんな災害であっても、必ずといっていいほど人と地域が直面する共通の課題、行政との連携、人の心を癒やすための支援など、普遍的かつお手本となるような事実と教訓が、300㌻超の同書の中に詳しくつづられている。
藤原さんは、「まるで14年前に自分の経験したことが、そっくりそのまま書かれているようだと驚いてしまった。阪神淡路だけでも東日本だけでもなく、どんな災害被災地においても大切だと言える内容がみっしり詰まった本ということだ」とうなる。
藤原さんは読後すぐ出版社から同書を50冊取り寄せ、知り合いを訪ね歩いて「すごい記憶、すごい記録。これは一家に一冊あるべき」と訴えながら売り歩くほどに衝撃を受けた。
東日本大震災直後、広田町第9区の区長として避難所運営や在宅避難者のサポートにあたっていた藤原さんは、同町へ支援にやってきた堀内さんと出会った。藤原さんが気仙大工左官伝承館内に設置される「3・11希望の灯り」の設置と「1・17希望の灯り」からの分灯に携わったのも、この出会いから築かれた友情が発端だ。
「こちらの負担にならない、そして被災した人たちの心情や状況までよくよく考えられた支援をしてくれて『すごいな』と思っていた。それは神戸でのつらい経験を〝財産〟に変えたからこそできたことだったのだと、改めて感じ入った」と藤原さん。「『喪失と悲嘆』のあとには、必ず『希望』がやってくるんだと知ってもらいたい」と力を込め、同書を強く推薦する。